2023/08/18

最近の収穫から:ジャッコ・ジャクジク

何も知らずに買ってみたDIZRHYTHMIAを「最近のクリムゾンに参加してる人のバンドだそうで」くらいに書いていたのがはや1年半前。時は流れて今では「敬愛するジャッコ師匠」となりました。

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リアルタイムまたはそれ相当の深さでシンセポップを追っている/いた人、2000年代以降のKING CRIMSONを追えている人、およびプログレ外郭音楽を掘り下げている人というニッチなリスナーしか行き当たらないアーティストであろうかと思うので、まだ新参信者ながら、今のところまでにつかんでいる経歴をご紹介したい。

ソロアーティストとして82年にイギリスでデビュー。当初はどっぷりニューウェイブ/シンセポップにのっかるようでいて、異質なレイヤーを平然と重ね張りして結果的にポップスの形になっているというような違和感がSLAPP HAPPY周辺作品を思わせる。実際にピーター・ブレグヴァド(SLAPP HAPPY)の作品に客演で登場していたり、83年のファーストアルバム「SILESIA」はデイヴ・スチュアート(EGG、BRUFORD、NATIONAL HEALTH、DAVE STEWART & BARBARA GASKIN他)のプロデュースであったりと、キャリア開始時点でもともとそっちのシーンと関わりはあった模様(詳しくは情報なし)。

翳りのある美声や、そこまで必要ないくらいに巧いリードギターなど、その後ずっと氏の作品の柱となる魅力は、スタートの時点からほぼ確立されている。今聴いても、時代なりの血迷いや流されよりも、強い確信のほうが勝る印象。
当時のプログレ/カンタベリーシーンといえば、ちょうど時代の境目で霧消寸前に大きく変容していたタイミング。そこを軸足にシンセポップ界へと駆け出たとて、そのクオリティやスペックとは裏腹にセールス面ですぐに大きく成功することはなく、80年代中頃までは細々とシングルのみのリリースでつなぐという活動ペースが続く。

やがてソロ作品にも参加していたドラマーのギャヴィン・ハリソンとDIZRHYTHMIAを結成(ギャヴィンは86年以降、一番のズッ友として氏のほとんどの音源に参加している)、翳り100%に振り切ったところにインド風味を加えた謎の名盤を88年に発表。
ISLAND傘下のフュージョン系レーベル・ANTILLESからのリリースとなるも、表面的には大変地味な内容であるし、どの程度当時のシーン(しかもどのシーン?)を賑わせたかは不明。

ソロキャリアは90年代以降も続き、JAPANのミック・カーンと接近したりしながら断続的にアルバムやEPを制作。どれもオリジナル盤がレア化してしまうような弱めのレーベルからのリリースとあって、なかなかブレイクスルーが訪れない。
しかし「知る人ぞ知るベテラン」の域となっても投げ出すことなく、2002年にKING CRIMSON卒業生バンドである21ST CENTURY SCHIZOID BANDに唯一の新顔として参加。そして遂にJAKSZYK, FRIPP AND COLLINS(以下JF&C)名義で御大フリップ翁とプロジェクトを組むに至り、そのままエイドリアン・ブリューの後任としてめでたくKING CRIMSONのリードシンガーの座に。更にいきなりDIZRHYTHMIAの28年ぶり2作目をリリースしたりしながら(ギャヴィンとのパートナーシップが続いていたことを思うとさほど突飛な展開でもなかったのかもしれない)、熱心なプログレッシャー達からようやくまっとうな評価を得て、現在もマイペースに活動中。

以上、折れなさからの遅咲きに泣ける略歴でした。

80年代はシンセポップ感、90年代は当時独特のアダルトダンサブル感、近年はクリムゾン感がソロワークのほうにも反映されつつも、芯にあるメランコリックな表現は全時期を通してすばらしい。DIZRHYTHMIAの音楽は今後も古びる気がしないし、JF&Cもかなり自身の土俵に引き込んだ内容になっている。

ちなみにデイヴ・スチュアートとは1stアルバム以降も、シンセで参加してもらったり、逆にDAVE STEWART & BARBARA GASKIN諸作にギターで助っ人参加したりという関係にある。そうとは知らずにここ数年DAVE STEWART & BARBARA GASKINのことはとても好きでいたので(ヴェイパー/ドリームポップが帰結する先の一つだと思っている)、好きと好きが好き同士というのは個人的に良い話。

80年代のシングルからの曲を集めたCD「ARE MY EARS WRONG?」が端的かつ粒ぞろいで、氏の魅力を手っ取り早く知るには良いのだけど、先述のとおり入手が難しい。もしうっかり安値で放出されているのを見かけたら即捕獲していただきたい。アナログを買う人なら「Who's Fooling Who」「Dangerous Dreams」あたりは中古での発見が比較的容易。
リーダー作ではないけど、まずは手に入れやすいJF&Cの「A SCARCITY OF MIRACLES」からでも、醍醐味はじゅうぶんに堪能できると思う。往年の叙情クリムゾンとは何か違うと感じる差分が、そのまま氏のカラーだと思っていただければ。クリムゾンの伝統との自然な融着・一体化ぶりが見事。
あとはDIZRHYTHMIAの2ndが1stとほぼまったく同じ音楽性で、歌入り曲が増えて聴きやすい好盤なので、レア化がこれ以上進む前に入手をおすすめしたい。

ワタシもまだ持ってない作品はメルカリ・ヤフオク・某店のウォントリスト・Discogsを包括的に利用し買い時を見定めているところ。この年になって新しいアイドルができて嬉しい。オッサンがじいさんをアイドル言うておりますが。