2023/08/19

MR.BIGフェアウェルツアー "The Big Finish" 名古屋公演リポート

80年前後生まれで中高時代に洋楽(ハードロック)を通った者なら皆洗礼を受けたMR. BIG。ずっとナンバーワンフェイバリットだったわけではないけど、ハードロック聴き始めの頃に出会ったから、音楽体験としてはトップクラスに根深いところにいる。今回が本物に会える最後のチャンスとなると、オリジナルLPを集めて悦に入っている場合ではなく、足を運んでこの目で拝み、思春期の落とし前をつけねばなるまいと即断し、高額なチケット代をウドーさんに貢いで高校時代の友人らと行ってきた。以下、当日のレポート。
曲順はもちろん覚えきらないので、あとからウェブに上がった情報を参考にさせていただいた。

開演前

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開場の18時前に余裕をもって到着すると、物販待ちで既に相当な人数の列(写真右下に先頭だけ写っていて、見切れているところに大勢いる)。年齢層は幅があるも、総じて高齢寄り。
列の先頭から数人ずつ物販デスクに案内されるスタイルのため、開演までに間に合わない可能性があります~などと整理の係員に言われながらけっこう待つ。Tシャツは5,500円からという超高額設定。図柄的にも普段着にしにくいラインナップの中から、辛うじてこれか...と目星をつけていたやつが早々に売り切れてしまい、結局順番が回ってきても何も買わずに抜けてきてしまった。(のちにこれが大正解の判断だったこととなる)

席は1階真ん中の後方寄り。思ったより遠すぎず、ステージ全体を見渡せるまずまず良い席。撮影は演奏風景を含めて全面OKで、開演近くまでの間は、通路からステージギリギリに近づいて機材を激写することもできた。ポールのアンプは後方にマーシャル・フェンダー・JCで、足元におそらくモニター用としてもう一台フェンダーぽいものがあった。

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開演

定刻になり暗転。バンド登場と思いきや、まずバックステージからやって来るメンバーの姿がリアルタイムでスクリーンに映し出されるという今どきの演出。これは期待が高まって良い。

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ほどなく大歓声に迎えられて4人が登場すると、1曲目はデビュー作の冒頭を飾っていた"Addicted To That Rush"。なるほどフェアウェルツアーには納得の選曲。
MR.BIG以外の活動でも全然現役な演奏陣は、想定通り衰え知らずのキレキレぶり。ビリー(・シーン / ベース)は見た目も30年まったく老けず、ポール(・ギルバート / ギター)はアンジェラ・アキ的なセミロング+太ブチメガネ。ドラマーを務めるニック・ディヴァージリオは、揺れない体軸から繰り出す重く鋭いショットがかなりリアルにパット(・トーピー / ドラムス、2018年逝去)を彷彿とさせる。

唯一エリック(・マーティン / ヴォーカル)は、近年作の音源上でもちょっと苦しそうな声に変わってきていたから心配があった。やはり全盛期の艶と余裕には及ばないまでも、できるだけガッカリさせないフェイクの入れ方で要所要所はちゃんと原曲どおりのラインを押さえてくれて、ベストを尽くそうとする真摯さをとても感じた。ステージパフォーマンスの面でもひょうきんな盛り立て上手といった立ち回りで、何だかんだエリックがMR. BIGの看板だなと初めて思った次第。

"Take Cover"のイントロのドラムが続く。ニックはビデオクリップで見ていたパットの動きと一緒。この曲は当時、1弦1音の高速スキッピングを延々繰り返すというギターのクレイジーなメインリフについて、ポール自ら超しんどいと「ヤングギター」誌で語っていた。早くも達人の我慢大会が見れるのかと楽しみにしたのだけど、あっさりと省エネなポジショニングに変更されており残念。
続いて、大名盤だった再結成第1作からリード曲の"Undertow"。イントロのオーヴァーダブされたフレーズが無かったから歌が入るまで気が付かず、出だしで沸きそこねてしまった。壮年となった彼らならではの本当によい曲。

途中に挟まれたMCはやはり感謝多め。早々に感慨が最高潮近くに。これから始まるのが最後の対面の時間ではあってほしくないのだけど、それを今夜楽しもうぜよろしくという煽りには当たり前にワーッという歓声で応えるしかなく、なんとも不思議な気持ちになった。メンバー紹介の折、スクリーンに映る往年の写真とともにパットが紹介されたときは、一段違う声と拍手が起こっていたように思う。

「LEAN INTO IT」再現の部

序盤からの畳みかけのままの勢いで、早くも今回のツアーの目玉、2nd「LEAN INTO IT」の全曲再現に突入。
"Daddy, Brother, Lover, Little Boy"で例のドリルタイムを初めて生で目撃。今でもやっぱり緑のマキタ。エリックはきっちりソロおわりのドリルキャッチャーをこなす。
スクリーンにはポール画伯の描き下ろしイラストが躍る。最高。

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確かにあの時代にハードロックをやってたバンドなんだなと改めて感じさせるオーセンティックな"Alive And Kickin'"を経て、みんな大好き"Green-Tinted Sixties Mind"。全員参加でコーラスをとる姿に、昔WOWOWの放送を録画してもらって何度も観た93年東京公演の画がフラッシュバック。泣ける。
個人的に一番好きなアルバムは「BUMP AHEAD」だけど、このアルバムもギターのフレーズをコピーしたことがある曲がたくさんあって、本物を目の当たりにする感慨が思った以上に凄い。
"CDFF-Lucky This Time"はオリジナルより2音くらいチューニングを下げたバージョンで演奏。確かにサビは高いロングトーンだからなー。音源ではリフのローDの響きが印象的だけど、ここは致し方なし。

ニックのヘヴィグルーヴが冴える"Voodoo Kiss"も懐かしく楽しみ、ここからアルバム後半へ。
"Never Say Never"はまたしてもチューニング低め。もしかしてベスト盤に入る感じじゃない曲を狙って省エネしているのかもしれないとこのあたりで思いはじめる。
そして"Just Take My Heart"をもちろんあの美しいイントロから。6弦を半音上げてのナチュラルハーモニクスのアルペジオを難なくこなし、これはやっぱり原曲キーのポジション(の半音下げチューニング)で演奏。染み入った。解散ツアーで「いなくなるなら僕のハートも持ってけよ、もう必要ないものだから」という歌詞は涙を誘いまくってよくないよくない。

"My Kinda Woman"はまたまた大幅チューンダウン対象で、しかもポールがキーを盛大に間違えてやり直し。あわてて持ち替えたギターが"Just Take My Heart"で6弦半音上げになったままで、また失敗という微笑ましい一幕も。
"A Little Too Loose"はこんなに下げたらイントロのビリーの歌は大丈夫なのか...と心配するも、B1(B♭1?)の超低音を難なく歌いこなし、さすがに化け物だろと思った。

引き続きキー下げバージョンでの"Road To Ruin"を終え、本当にここで?というこのタイミングでバンド随一のヒット曲"To Be With You"。今日ばかりはこれを聴きにきた。音源どおりの合いの手を入れてくれるエリックのアシストのもと、場内大合唱。転調してまた戻って、曲が終わっていくのが寂しく感じてしまった。

アコースティックタイム→独奏&爆走曲タイム

"To Be With You"からの流れでアコースティックセットのまま数曲。1stから意外な"Big Love"、4thから"The Chain"と"Where Do I Fit In?"。後者ではエリックとポールのギターのストロークがまったく噛み合わず、不成立寸前のクオリティとなるも、まあまあまあと温かい客席。
続く大名曲"Promise Her The Moon"と、リアルタイムのファンには思い出深い"Wild World"で持ち直し、ポールのソロタイムへ。

やはりどんな高速フレーズもクリーンで簡単そうに弾く。やがてバッキングぽいものを挟んできたと思ったら、予想外すぎた"Nothing But Love"のギター独奏バージョンへと発展。クラシカルで華やかなコード進行だしこういうやり方でもバツグンに映えて、ひたすら美しかった。

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弾きまくりの余韻のままもつれ込んだのは"Colorado Bulldog"。30年以上休み休み練習しても全然弾けるようにならないイントロの鬼フレーズ、本人も結局7割くらいの命中率でやり過ごしていて、やっぱり難しいよね無理だよねと安心。元々かなりアップテンポな曲なのに、ニックが突っ走りまくって非人間的ハイスピードで演奏されて凄まじかった。そんな中でも端々のフィルひとつにいたるまでかなり原曲に忠実に叩いていて、敏腕仕事人ぶりにいたく感じ入る。

そしてビリーのベースソロ。ちょっとした演出のあったポールとは違って、ビリーはもうひたすらに弾き倒す。昔でさえこんなことまでやってたっけ?という超高速両手タッピングで延々つなぐ精力はとても70歳とは思えない。
そろそろお腹一杯です...というくらいまで引っ張ると、アンコールの本命だと思っていた"Shy Boy"がスタート。ビリーがあまりにも衰え知らずの絶好調なので、未だ進化中の現役であるスティーヴ・ヴァイと一緒にデイヴ・リー・ロスバンド再結成でワールドツアーしてくれんかと思ってしまった。
これにていったん本編終了。

アンコール(カバー祭り)

こうなると最後はあのへんの曲しか残ってないのでは...と思いながら一生懸命手を叩いているうちにメンバーが戻り、披露されたのは案の定、1stの最後に収められていたHUMBLE PIEのカヴァー"30 Days In The Hole"。
そういえば結成当初は、BAD COMPANYみたいなシンプルなロックンロールをやろうするバンドだったということを久しぶりに思い出した。

続いてポールがドラム、ニックがギター、エリックがベース、ビリーがピンボーカルというシャッフル編成で、THE RASCALSのカヴァー"Good Lovin'"。往時のライブ盤などでも聴いたことがなかったから、アンコールの絶頂タイムにして「誰の何?誰の何?」となったまま終わってしまった。ビリーは高い方の歌声もちゃんと出て凄い。

最後の最後は、やってくれないかなと期待したFREEの"Mr. Big"ではなく、THE WHOの"Baba O'Reily"。おっおっ思い入れがそれほど...となりながらも、この曲でシメという空気のもと別れの時間は近づいてくる。"Addicted~"で幕を開け、初期のライブ盤でもラストに収録されているこの曲を最後に演奏するということは、結成した頃のツアーじゃきっと決まってこの曲で締めてたんだろうなと、彼ら側の感慨を想像してみたらそれなりに没入していけた。

演奏の前(後だったかもしれない)に、バンドを代表して最年長のビリーが、長めに時間を取って最後の挨拶をしてくれた。長年の思い入れを抱えて終演までの時間を惜しむファンの気持ちによりそって、丁寧に感謝の言葉を述べてくれて、こちらもひたすらありがとうという気持ちで受け取った。
初めて知ってから数十年ごしに、思い出深いバンドとこんなにじっくり最後の時間を共有できたのは贅沢なことだなと思う。ありがとうMR. BIG~。

終演後

一緒に見に行った友人夫婦と少し盛りの足りない中華を囲んでひとしきり昔話に花を咲かせ、帰宅後も余韻がさめずツイッターでこの日の来場者の感想を検索し続けていたらその中に、「ウェブ限定柄の最高のTシャツをオーダーしたから物販はスルー」的な投稿を発見した。添えられた写真は、ポール画伯による4人のメンバーのイラストをシンプルにあしらった、白地に緑の最高過ぎるやつ。ウドーのオフィシャル物販サイトで確かに発見し(7月中のオーダー限定だったので現在はもう買えません)、会場同様の超高額+Tシャツ1着ごときにメール便サイズではない通常送料という設定にひと晩迷ったのち、やっぱり購入。グッズとはいえもう少し常識的にやってくれないかウドーさん...

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届いてみれば、生地も10年は着れそうなしっかりした柔らかい厚手でよかった。何かの折に着用して登場しようと思う。