2022/02/08

最近の収穫から

既知のテリトリーを執念深く掘り下げるような投稿があまりに続いているので、たまには新規買い(ただしほぼ旧譜)の中から印象的だったものをご紹介したい。

DIZRHYTHMIA

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マスロックのDYSRHYTHMIAではない。最近のKING CRIMSONに参加しているジャッコ・ジャクジクが在籍する、なんだか謎めいたグループ。88年の1st(写真左)はリリース元がISLANDのANTILLES NEW DIRECTIONSというシリーズで、プログレ棚でISLANDの背ラベルを見かけるのがまず珍しい気がする。LOUNGE LIZARDS人脈ということでもなさそうだけど、どこかアカデミック・多国籍風・ちょっとジャズマナーなミクスチャーという点では、同じアンテナに引っ掛かりうるグループかもしれない。

素っ頓狂なのか暗黒なのか憶測に困るジャケの中身はというと、まったくの予想外なものだった。端正な生ピアノとともにラテン~西アジアぽいエスニック楽器を多用する、盛り上がりを徹底排除した極度にメランコリックなフュージョン/ジャムバンドのような人達が、悲壮感とも違う翳りの景色をゆーっくりスクロールさせてくれるだけという、なかなかに振り切った内容。たまにヴォーカルも入るけど、ほとんどの曲では「あ~」というスキャット程度で、人の声が入ってもなお「無人の部屋」感が凄い。
ゆったりしたベースが重心を低めに据えるアンサンブルで、エレクトリックギターも多めにフィーチャーされており、所詮一生ロックしか聴けない体質のまま加齢したワタシにはちょうどよい体感。たまたま知ってる範囲の例えだけど、ギタリストのアレン・ハインズの作品のような「大人の余裕、しかし進歩のない暇つぶしではなくむしろ逆」という感じの上質なキレが全編に効いていて、地味なようだが聴き応えは充分。
ちなみにメンバーはクリムゾンの件を抜きにしても、元PENTANGLEの人だったり、ケヴィン・エアーズやらケイト・ブッシュやらの客演をしていたりと、全員それぞれキャリアのある実力者揃いらしい。その人脈からかデイヴ・スチュワートやピーター・ブレグヴァドなど豪華な人々がゲスト参加している。

変わったとこ突いてくる人達だなあと気になって、やや入手困難気味な2nd(写真右)も買い求めてしまった。なんと28年ぶりの2016年リリース。
冒頭曲から前作と完全に同じ翳り感で、インターバルなど全くあいていないように聴こえる。 LOUNGE LIZARDS関係ないと書いたけど、ちょっとエリック・サンコのソロ作と似た空気感がある気もしてきた。
盛り上がりの地味さは据え置きのまま、ちゃんと歌詞がついて歌もの然とした曲が増えて、なんならこっちのほうが聴きやすいかもしれない。これは「DIZRHYTHMIAみたいな音楽やるグループ、その後他にどこにもいないし、いつか復活せんかなあ」と妄想していた古参ファンにとっては号泣もののプレゼントだったのでは。いや素晴らしいじゃないか。「どこにも何もないかのように通り抜けていくムード音楽」として聴かれる可能性も物凄くあると思うけど、ワタシはこのように聴きました。

NAKED EYES

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たぶん知る人ぞ普通に知る、ニューウェイブシンセポップのいわゆる一発屋扱いなイギリス出身のユニットのセルフタイトル作。やたらにリアルで物言いたげな眼光の目が四角形にはりついているという、この異様なジャケが気になって購入。ヒットしたというカバーの1曲目だけ少し雰囲気が違うのでさておいて、それ以降のアルバム全編、ギターポップとAORが微妙に混然一体としていた頃の天然ドリーミー/ヴェイパー感が強烈に冴えている。ニューロマンティック的なねっとり感はありそうでそんなにないというか、少なくともヴォーカルにはほとんどなくて、変態っぽい乱痴気ポップスに走りすぎてもいない。ちょっとひょうきんなGANGWAYくらいの楽曲重視なスタンスが好みに合って良かった。

とはいえ何をおいてもこのジャケですよ。部屋に面出しで飾りたい衝動に駆られるけどやってません。

BRYAN LOREN

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自身の作品はこの1枚だけで、その後作曲/プロデュース/スタジオワーク方面で大活躍したというR&Bの人。サブスクでブラコンどころを漁り歩いているときに遭遇して印象に残り、のちにCD購入。そしてLPも安く見つけてしまいそれも購入。
ポップスへの入りがTM NETWORKだった身にはとても馴染みのある、チャキチャキとしたシンセビーツで四方を固めていて、溺れるくらいにFMシンセの質感を堪能できてよい。ノリノリでややメロウな楽曲はちょっとワンパターンだがどれもキャッチー。終始ソフトな(何なら少々弱っちい、かといってヘタではない)声質で、ブラックミュージック然としたグイグイくる抑揚やセクシー感が皆無なヴォーカリゼーションと曲との組み合わせが絶妙。この諸々のバランスは相当変わっている部類なのでは。再評価されていないのならされてほしい。

DAVE GRUISIN「NIGHT LINES」

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たまたまBSで見た映画「トッツィー」の主題歌がなんか聴いたことある声で、調べたら案の定スティーヴン・ビショップで、なんなら既に持っているベスト盤にその曲は入っていて(名曲"It Might Be You")、己の脳のキャパ低下を嘆きながら、その作曲者デイヴ・グルーシンをチェックし始めてすぐに掘り当てたアルバム。良すぎたので捨て値CD購入ののちLPでも購入。
80年代前半は、テクノロジーの台頭を目の当たりにしてそれまで築き上げたものを色々と見失い、いきなり打ち込みのリズム隊でアルバム1枚作ってくれるケースがフュージョン界にちらほらあり、この作品もその例のひとつ。チープなLINN DRUMの響きが真性のエレベーター・ミュージックの趣を漂わせるが、それこそが聴きたい。本当にありがとうございます。
それだけだったら雰囲気がおいしいだけの1枚になってしまうところを、このアルバムにはランディ・グッドラム(スティーヴ・ペリー"Foolish Heart"の作曲者)が曲提供かつボーカルで参加している曲が2つもある。人工的なシンセだけに彩られた、抑揚の「抑」強めなこの2曲がどちらも最高すぎるので買い、という定評がおそらくメロウグルーヴ畑では既についていることかと思う。アナログバブルの中でもこの手の作品はまだ格安で手に入るから嬉しい。

DAVID ROBERTS「ALL DRESSED UP」

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WOUNDED BIRDSのリイシューCDですら高値がつくマイナーAORどころも、中古LP市場をのぞいてみると棚の下の格安段ボールにいくらでもゴロゴロしていて、音楽の値打ちとは...と複雑な思いがする。一時期嬉々として買い集めていたそのあたりの作品を、アナログデビュー後はひどくぞんざいな扱いでいつでも見かけるので最近はちょっと手が伸びないのだけど、このアルバムは最高中の最高。超ウルトラ・ジェイ・グレイドン印の純メロハー。こういうのとマーク・ジョーダンみたいなシブどころが一括りにAORとされるのはつくづく不思議現象である。こっち寄りがツボなら、あなたが好きなのはメロハーです!SHYやSTRANGEWAYSを聴いて下さい!
さておき、ツボを押さえたコンパクトな曲展開、デイヴィッド・パックあたりを思わせるロック向きなハイトーン、キラキラエレピに威勢の良いハーモナイズドギター、素直な泣きにポップネスと、メロハー好きを悶絶死させる要素が切っても切っても出てくる。似たような音楽性のアルバムの中でも楽曲のツブ立ちが突出してすばらしい。ジム・フォトグロやALESSI BROTHERSほど頻繁には見かけないものの、粘ればちゃんと500円以下でお目にかかれるのでがんばってほしい。CD(LP捕獲前にわざわざ買ってしまった)はリマスター効果でちょっとボスボスうるさくて、あまりお勧めはしない。

まだちょっとあるけど、いったんこのへんで。