2023/05/05

JACKAL - A Safe Look In Mirrors (1994)

ゼロコーポレーションから日本盤出てたやつね、懐かしい~、で終了している熟年メタラーも多いかもしれないデンマークのJACKALの3rd。ここのところの買い物の中で断トツ一番良いのでみっちり掘り下げたい。

JACKALが紹介されるときはほぼ必ず「正統派HM」が枕につくわけだけど、スラッシュメタル以降から90年代にかけての「正統派」なるものはちょっと難しい言葉だと思う。
基本的には「スラッシュメタルではなく、ネオクラシカルでもなく、パワーメタルというほどゴリマッチョでもなく、メロディアスさをわずかにパワー感が上回るヒロイックなメタル」と言いたいときに、隔離的な範囲指定として使われる用語だと捉えている。
そうなると音楽的には、JUDAS PRIESTの"Jawbreaker"とかEUROPEの"Scream Of Anger"とかPRETTY MAIDS全般みたいな、通りがよく過剰に悲壮感のない泣きがあってほしいところだけど、いざ超王道(IRON MAIDENなど)を除く80年代正統派HMの代表的なバンドは?と問うと、挙がるのはMETAL CHURCHやVICIOUS RUMORSだったりする。スラッシュ/スピードメタル先発組と同世代でもある彼らは、スラッシャーがよく使うルート→短二度(ルートの半音上)→短三度...といういわゆるフリジアンモードを割と積極的に採用していて、ネオクラシカルを知っている耳のリスナーが後追いで「正統派=勇壮な泣き」を求めて聴くと、微妙に消化不良感があるかもしれない(自分が昔そうだった)。

JACKALは日本デビュー作となった2nd「VAGUE VISIONS」(1993)の時点で既に、正統派然とした素直な泣きをおおむね基調としながらもややゴリッとした方向に行きそうなポテンシャルを感じさせ、更に時代柄のプログレメタル風味が混じってきたりと、気持ちよく拳を振り上げて男泣きさせてくれるカタルシスに特化した作風とは言い切れない立ち位置にいた。単純に「もうちょっと煮え切ってくれよ」という皮一枚感もあったように思う。
そして続いたこの3rdでは、いよいよグランジその他のヘヴィミュージックに押された旧型メタルが何かしら変容するかさもなくば没落するかというプレッシャーを、エキセントリックな創造性に昇華した快作中の快作になっている。
変則的なアクセントと突っ走るスピード感の合わせ技でバクバクと噛みかかってくる冒頭曲のリフ一発、流麗だがスリリングなコード展開からして、尋常なテンションではない。DIOの「STRANGE HIGHWAYS」~「ANGRY MACHINES」あたりのモダンなものへの闘志を三人時代末期のRAGEに注入したかのような大名曲。更に90年代VICIOUS RUMORSの当たり曲的な2曲目と続き、ここで90年代フリークはノックアウトされるしかない。
その後もヘヴィネスに気を配りながらダルい暗さが続きすぎないバランス感覚と、RAGEっぽい絶妙な屈折加減とで、緩急つけながら最後までグリグリとえぐってくる(ラストの曲がまたかっこいい)。効率のいい泣きにこそ奮い立つようなメロスピ以降の耳には少々謎が多いかも知れないが、旧世代としては懐の深さの現れとして大いに評価したい。

作品全体を通して、ソリッドで適度にムチムチザクザクしたギターのディストーションとボトムの太さの噛み合い方が気持ちよく、エンジニアを確認してみるとシャーリー・バウアファイント。ANGRA、GAMMA RAY、HEAVENS GATE、90年代のHELLOWEEN、HAMMERFALLなどドイツを中心としたピュアメタルどころを多く手掛ける名手でなるほどと納得。特にギターはハイゲインをきれいに収めるだけではない荒れ・暴れ成分を少し残していて、理想的なパワーメタルサウンドになっていると思う。

一点気になるのは、シンガーが細かいところまでやたらとブルース・ディッキンソンに似ていること。NEW RELIGIONのシンガーがジェフ・テイトに似ているレベルで似ている。動・静の静に振れる場面では実際にIRON MAIDENを彷彿とさせなくもないながら、これだけのユニークさを体現しているのだから、誰かのソックリさんみたいな印象は無いほうがよかったのになと思う。だが同時にものすごく安定感のある実力も備えているので、魅力を損なうということではない。逆に敢えてブルースのそっくりさんを探している向きがいたら、JACKALはマストでチェックすべし。

リリース元は90年代アメリカのRISING SUN PRODUCTIONS。INSIDE OUTやFRONTIERSが頑張り始めるまでの間、ドイツのLONG ISLANDやイギリスのNOW & THENあたりと共にネットワークを形成して、非エクストリーム系メタルの火を絶やすまいと気を吐いていた大変ありがたいインディレーベル。最近ちょっとマニアックなバンドが気になると、高確率でこのトライアングルのどこかに属していることが多い。プレミア化が進行する前にめぼしいところは入手しておかねば。

Youtubeの検索結果