2021/02/15

アナログプレイヤーを導入した・その後

【後日註:この記事は盤面のクリーニングが充分でないアナログディスクについての感想を含みます】

前回からの続き。

自室にアナログプレイヤーが到来して2~3週末挟み、当初「ウェブで物色はせず、無欲に、出会ったものだけを買っていく」と立てた指針が、現実は「今まで存在すら知らなかったアナログ専門のリアル店舗を探して訪ね、出会ってしまった盤は物欲のままに買う」という結果になっている。人間の心は弱い。
ビギナーだからまだ大目に見ているものの(誰が誰を?)、歯止めとなるガイドラインをまた改めて定めなければ危険だ。

そんな中でも追加の発見があり、それについて書いておきたい。


1. アナログの方が明確に音が悪い場合がある

覚えたての常識をこれから知る人に向かって我が発見ヅラして説く人生からそろそろ脱したいけど、「そんなの教えてくれよ」って自分が思ったし、同じ轍踏む人絶対いるもんな。
スリキズ由来のプチプチノイズや音飛び程度はまだ我慢できる。「内周歪み」は無理。

ゲイリー・ムーアの「RUN FOR COVER」を店頭で見つけ、高校の頃買ったバラード&ブルーズベストにも入っていた名曲"Empty Rooms"をアナログの音で聴いてじーんとしてみたかったので購入。
嬉々として音良いかもしれない、大して違わないかもしれない~などと言ってるのと時を同じくして、実は自室のオーディオの調子がすこぶる悪かった。症状はプリメインアンプでの音の歪み。一時的に解消させる対処法があったが次第に効かなくなり、日々のリスニングがストレスフル極まりない。せっかく買ってきた「RUN FOR COVER」も、A面最後の"Empty Rooms"になるといつもギターソロの音がメッシメシに割れて残念無念。辛抱ならなくなって、ほぼ同型のアンプを探して急遽買い替えた。
今度こそお願いしますゲイリー師匠。

ドラムが消えてガットギターと鍵盤だけになるブレイク、明けてギターソロ。
んー歪んでる。
なんとなくこの曲だけじゃなくB面も終盤がおかしい気はしていた。「レコード 内周 歪む」で検索すると出るわ出るわ。
「RUN FOR COVER」のリリース元はVIRGIN傘下の10 RECORDS。サブレーベルとなると低予算な可能性はある。それこそ同じアルバムでもマスターによって程度の差があるのかも知れないし、手にしたイシューはたまたま特別雑なやつだったのかもしれない。
でもゲイリー・ムーア・クラスの人でこんなことがあると、これからずっと、いつハズレを引くか分からなくて怖い。
LPの収録可能時間スレスレまで攻めたというDEF LEPPARDの「HYSTERIA」なんかはどうなのだろう。ぜひ確認したいじゃないか。


2. そもそも大して良い録音ではないかもしれない

JOURNEYの大ブレイク中、シンガーのスティーヴ・ペリーが83年にリリースしたソロ「STREET TALK」。状態良好で安く見かけ、天井知らずのアナログサウンドで"Foolish Heart"聴きたいよねーと心の悪魔が節制の天使を簡単に打ち負かして購入。
内周歪みの件のガッカリを引きずりながら恐る恐る針を落とすと、冒頭曲"Oh Sherrie"イントロでヴォーカルのみになるパートとその後あたりでいきなり若干の違和感。そのまま曲が進んでも、ずっとうっすら割れ気味に聴こえる。「外周歪み」は調べても出てこない。

このアルバムはCDでもまだそんなに聴き込んでいないので、確認のためにCDと比べてみると、そっちも中高域が一杯いっぱいに飽和して余裕がなく、同様の症状。
オーディオアンプの調子が悪かったから耳が疑心暗鬼を起こして、ただのコンプ感も歪んでるように聴こえているのか?
2曲目"I Believe"のピアノの軽快なイントロは至ってクリーン。だが歌が乗るとやっぱり余裕がない。

アナログ時代はS/N比稼ぎのために、音量感に直結するハイミッドを若干上げ目にマスタリングしていたという話は、宅録~DAW界隈でもよく耳にする。
このアルバムはその慣習がガッツリ悪い方に出てしまっているということかもしれないし、過度なまでにトレブルの立ったスティーヴ・ペリーの声質(しかも全盛期の絶唱)をコンプで均すと、オーディオ的に歪んでいなくても歪んだような音色に聴こえてしまうという可能性もある。
同じ声でも、先に購入したJOURNEYの「ESCAPE」では全く感じていなかったから、売れまくって多忙な中よほどカツカツな納期で作られてしまったのだろうか。それにしてはいい曲ぞろいの名作ですよ。普通にゆっくり丁寧に作ったのかもしれないけど。

当時の制作背景に興味が沸きつつ、こんな細かいことは気にせず、内容だけ聴いて楽しめるに越したことはない。壊れたアンプのおかげで損な習慣がついてしまった。
見慣れたジャケが30cm四方サイズで眼の前にあることの説得力に押し切られてつい買ってしまう前に今一度、「『これを聴く体験・時間』を買いたいほどにサウンドプロダクション面でも良好な作品だったか?」と自問することの重要性は身に染みた。
でもたいてい悪魔が強いんだな。


3. 制作環境のアナログ度とLP聴取の醍醐味は正比例の関係か

そうだろうと想像して、当初、買うならおおよそ83年くらいまでのもの中心で...という基準を設けてみていた。最初の1枚(GENESIS「THE LAMB LIES DOWN ON BROADWAY」/1974年)が素晴らしかったこともあり。

数日前、88年リリースのDAVID LEE ROTH「SKYSCAPER」をバーゲン箱で発見。年代は比較的新しいが、"まるっきりパラダイス (Just Like Paradise)"がとにかく好きなのでもちろん購入。
デイヴのVAN HALEN脱退後2枚目のフルアルバムとなる本作は、前作に引き続き孤高の変態スティーヴ・ヴァイ(g)、TALASから引き抜かれたビリー・シーン(b / のちにMR. BIG)、グレッグ・ビソネット(ds / 現在drumeoで陽気なレクチャー動画が沢山見られる)という布陣で、リリースはWARNERから。
予算不足の心配など微塵もなく、参加したビリー・シーン本人をしてオーバープロデュースと言わしめるくらい、豪華絢爛な1枚となっている。

CDリリースありきな時代の作品のLPバージョンでも、制作上の意図によるものと思しきマスターの差異がありうることはMR. BIGで確認した。
このアルバムも多少そんなことがあったりするかなと思って再生してみたところ、予想外のものが出てきた。

「SKYSCRAPER」はもともと、極限までドライに録られたスティーヴ・ヴァイのギターをはじめ、すべての輪郭がやたらにクリアでととのっている。そこが普通にCD然とした印象だと思っていた。
LPでは、基本の印象はまったくブレず、その良好すぎる録音のおつりの部分まで聴けてしまう感じがある。作り込みと生々しさがどっちも凄い。(何を指して良いと言っているかは前回投稿を参照されたい)

CDの裏ジャケを確認したら、「The music on this Compact Disc was originally recorded on analog equipment. ~」と書いてある。CDはそれを忠実にデジタルに移行し...とCDの利点に関する内容が続くのだが、後世の人間が知りたいのはそこではない。正真正銘アナログ録音だと書いてある。
アメリカで一番お金が回っていた時代(想像)、よく整備された現役アナログ機器とその使い手が全力投入された、元VAN HALENのダイヤモンド・デイヴのアルバム、なるほど頂点たりうる要素しかない。

だとするとメジャーレーベルで活躍したヘアメタル一派末期の作品群は、全部LPが凄いんじゃなかろうか。未リマスターCDとさしたる差のなかったFOREIGNERの2ndよりよっぽど感動している。
CDのブックレットに「AAD」と書いてないか確認してからLPを物色する、そうなるともう音楽聴いてるのか何をやってるのかよくわからない。とりあえずWINGERの1st(CD)には「SKYSCRAPER」と同じ「The music on ~」の説明書きがあるのを確認できた。さて...