2021/11/30

THUNDERHEAD - Killing With Style (1994)

半年以上前に宣言していた、インスタアカウント @metal_of_the_90sに投稿した90年代メタルの味わい深き盤を文章で紹介するシリーズをようやくはじめます。インスタでの投稿順に書いていきます。旧サイトで紹介済みのものが多々あるのはご容赦を。


ということで1枚目に選んだのはしつこくTHUNDERHEADの4th。なにぶん所持CD数1ケタ時代に初めて「ラジオで聴いて衝撃を受け、店に買いに走る」をやった作品なので。2020年代のいま、このグループのことを思い続けているメタラーが世界に何人いるだろうか...と思って検索してみると、数年以内に彼らについて言及している同志が意外にちらほらいて、皆一様に「今となってはあまり知られていないが」というトーンでバンド結成の経緯から詳しく書いていたりする。嬉しい。

なのでそのあたりのストーリーは割愛するとして、とにかく80年代末にドイツに渡ったニューヨーカーのテッド・ブレット(Vo./G.、本名プリット)とドイツ勢3人とでハノーファーを拠点に活動したのがこのTHUNDERHEAD。
テッドの歌唱は荒々しいのと同時に歌い上げ力も高く、聴きづらい域のオヤジくささには至らない。その微妙だが決定的な一線を越えてしまっているばっかりに、世間で「男臭い系」とされるメタルバンドの一部にはどうも食指が伸びなかったりするから、このバランスは本当にありがたい。
ドイツ勢3人の中にはその後PRIMAL FEARやSINNERなどの正統派叙情メタルバンドで活躍するヘニー・ウォルター(G.)がいる。現在はMOTORHEADそっくりトリオ・NITROGODSも率いているのだけど、彼の持ち合わせるその哀愁と爆走の両極がまさにTHUNDERHEADの楽曲の中で体現されている。それが先述のテッドの絶妙な塩加減と完璧にマッチしているところが、このバンドの何よりの奇跡だと思う。
加えてドラマーのアレックス・スコッティの、ブライアン・ダウニー(THIN LIZZY)がメタルを叩いたような軽妙なキレ。図式オチではなく体感の快さが伴うバンドサウンドになっているのがなお良い。知名度の低いうちからジャパンツアーを敢行し、ライブバンドとしての定評をグングン得て日本のファンの人気を博したという昔話も、そりゃそうなるよなと音源を聴くだけで察せられる。(筆者は当時中学生だったためライブは未体験)

デビュー当初から一貫して、そんな感じの「男泣きするMOTORHEAD」「暴走が上手いリック・デリンジャー」ともいうべきハードロックとメタルのぬれせんべい的ポジションをひた走ってきて、94年にリリースされたこの4作目では冒頭曲"Young And Useless"のビデオクリップも制作されるなど、この頃がバンドのキャリアのハイライトになっていたように思う。
ソリの合わないプロデューサーの手を離れ、前作に引き続いてのセルフプロデュース。基本的な音楽性は不変ながら、ポップ寄りな曲は控えめに、基本速度170BPM前後でバキバキ駆け抜ける硬質路線の仕上がりとなった。

アップテンポな曲のキレはもちろんのこと、陰鬱ではないがしっかりヘヴィな90年代仕様の曲、哀愁を絵に描いたかの如き2曲のバラード、バンド史上最速をマークする曲、〆にアンプラグドでリック・デリンジャーのカヴァー(テッドの歌が無敵にハマる)と、金太郎飴の中にもバリエーションがある。
その最速チューン"Whips And Chains"は某SKID ROWの"Slave To The Grind"にうっかり激似で、そもそも冒頭のキメ曲"Young And Useless"も1st収録の自前曲"Take It To The Highway"をマイナーキーにしたみたいな曲であったり、他のアルバムでもたまにその手のうっかりは散見されたりする。まさかほぼリアルタイムでSKID ROW風味がにじんでしまうとはちょっと微笑ましいものの、そのことがファンの愛をぐらつかせるものではない(むしろ愛せる)。

現在は残念なことにテッドが引退状態で、権利関係をクリアできないからなのか(憶測)、サブスクには上がっていない。CDは比較的見つけやすいので、ぬれせんべいが好きな人はぜひ拾い上げていただきたい。そしてテッドにはいつか帰ってきてほしい。でもFRONTIERS MUSICあたりがやりそうな微妙な熟年シャッフルプロジェクトにフィーチャーされたところで満足しないんだろうな。THUNDERHEADの4人は最高。

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