2021/12/01

FORBIDDEN - Distortion (1994)

高確率で「スラッシュ第三世代の〇〇(〇〇には雄、旗手、代表格などが入る)」という枕付きで紹介されるFORBIDDEN。
メタルの定義の枠をブチ破って未開の地に旗を立てたのが第一世代、それと同時期に活動していたが先発隊のブレイクを受けて後追い的にレコードデビューをしたのが第二世代、成熟が進んだシーンの中で純粋培養された更なる後発が第三世代で、その区切れがおおよそ2~3年ごと、トータルでもほんの10年間程度の出来事だから、後追いのリスナーにとっては知ったこっちゃない話でもある。(ちなみにその後グランジ/オルタナブームによってメタル全般が表舞台から駆逐され、研究開発の先端はデスメタル周辺に移行したため、ムーヴメントとしてのスラッシュ第四世代は存在しない)

だがその後の流れを見ると、メタル瀕死の時代に力強く生き残ったのは、高性能で安定型の後発世代ではなく、自分達のやることを大胆に再定義することができた初期世代だった(SLAYERだけはまったく不変だったが)。
後期第二~第三世代バンドの中には、イメージ払拭のためグループ名まで変えて、音楽的にも時流に迎合する方向に舵を切ったバンドが多くいた。LAAZ ROCKITはGACK、HEATHENはTHE COMPANY、WRATHCHILD AMERICAはSOULS AT ZERO、成功組だったDEATH ANGELまでTHE ORGANIZATIONになったことを覚えているだろうか。

スラッシュメタルシーンの中のFORBIDDENといえば、パワフルに音程つきで歌えるラス・アンダーソン(Vo.)を擁し、鋭いザクみもありながらちょっとサイコなフレーズでネチネチ攻めるのが達者なリフメイキングが特徴だった。そのような高いポテンシャルを活かして、グランジ時代の彼らは改名することなくメタルらしさを保って踏ん張った。その第1弾がこの3rd。
ANTHRAXその他のようにシアトルスタイルを参照することはせず、ややPANTERAっぽい大粒感あるミッドテンポのリズムに緻密なリフをはめていくスタイルを選択している。同じく94年リリースだったNEVERMOREの1stに通じるところもある(ちなみにギターのティム・カルヴァートはその後NEVERMOREに加入)。初期2作よりもダークさが強まったが、違和感をともなう色調の変化はなく、高速2ビートを脱したことでシンガーがのびのびと歌い散らしているのは歓迎すべき変化といえる。

とはいえ全体的に飛び抜けてキャッチーというほどではない中、冒頭のタイトルトラックだけは、90年代メタルの名曲トップ40に入れたいインパクトと完成度を誇るので強くおすすめしたい。不穏なアルペジオと岩盤系リフを入れ替えながら、低速シャッフルビートで緊張感を煽りに煽る展開美は、鬼の面を被ったSAVATAGEの如し。というか同年にリリースされたSAVATAGEの「HANDFUL OF RAIN」収録の佳曲"Taunting Cobras"や"Castles Burning"と完全に共鳴している。この雰囲気、きょうびのプログレメタルバンドからはちょっと聴こえてこない感じなのだなあ。

プロデュースとエンジニアリングを担当したのは、代表的な仕事がFORBIDDENの3rd・4thとパンク畑のNO USE FOR A NAMEくらいという、パトリック・コフリンなる人物。リバーブをかなり抑えたラウド&クリアーな音作りもこのアルバムの魅力に一役買っていると思う。

ラストにはメタル界にありそうであまりない、KING CRIMSONの"21世紀の精神異常者"のカバー。メタルバージョンになっても違和感はない。持ち前のテクニカルさを活かせそうな間奏部分に期待が高まるも、独特の超解釈が加えられているうえリズムももっさりしていて微妙なのでそこだけ注意。まあボーナストラックだと思って度外視できる。とにかくタイトルトラックのために買ってください。
本作に続く4th「GREEN」は、90年代然とした洗練が進みながらも突進力を取り戻した良いアルバムだったのだけど、引き続き苦境を強いられてバンドはいったん解散してしまう。今なら細々とでも限られたファンベースに向けて活動を続けられそうなものなのに、当時の受難っぷりは相当過酷なものだったんだなと改めて思う。

Youtubeの検索結果