2021/04/08

またリマスター所感とか

皆さんは新しいものにキャッチアップしてるでしょうか。私はすっかり怠慢です。というかサブスクに手を出して昨今の状況の一端をようやくちゃんと垣間見た結果「現代やべー」と一時期あんなに猛省したのに、人工知能様がレコメンしてくれる知らないアーティストたちのあまりに安全なモダンぶりにだんだんハーそうですかとなってきて、先着1~2割に入れば本物か?新しいっぽい二番手以降は懐古主義的レプリカと根性的に何も変わらんのでは?といろいろ疑うようになってしまった挙句、CDで持ってる昔のアルバムをLPで買い直して2枚持ちしては「やっぱりGENESISだけ聴いてれば生きていける」などと嘯く老害体質となったのが現在の私です。2000年そこそこの頃に身近で見かけた「今年一番聴いたアルバムはビートルズの何々、2位はビートルズの何々、音楽は結局ビートルズ」的な年上と自分が何も変わらんのは寂しい。今はトレンドに狙いを定めた人達が情報やスキルの不足で失敗する(結果オリジナルでしかなくなってしまう)ケースがほぼ皆無だから、往時に比べて飽和速度が速まってるのは致し方ない部分もあるよなー。などと昔の年寄りもさんざん時代や状況のせいにしてきたに違いない。

そういった具合であるので、既に知っている音源の音質とか制作背景のような二次情報を以前に増して気にしてしまう。
リヴィング・イン・ザ・パスト人間のSpotifyホームには、おすすめプレイリストとして「Best of Rock 1992」みたいなのが自然と上がってくる。やけにTHE CUREとGIN BLOSSOMSとR.E.M.が多いのが不満だが、たまにはさまってくるモダン(当時)なメタルにはやはり心が落ち着く。
だがしかしMEGADETHの「COUNTDOWN TO EXTINCTION / 破滅へのカウントダウン」(92年)からの曲で完全に手が止まった。海外のオンラインショップでTシャツを物色していた手が。
このアルバムに一番ないはずのもの、「中音域とアンビエンス」がモリモリとある。
よく見ると2018年リマスター。あんなにゾインゾインいっていたベースはファットで量感があり、スネアはUGRITONEのプラグインみたいな完全に別物の音。何ということでしょう??

METALLICAが2nd「RIDE THE LIGHTNING」(84年)あたりからノイズレスで極めて制動性の高い、中音域をグッとえぐりながら芯もあるヘヴィなバッキングギターサウンドの開発・向上に取り組んで、4th「...AND JUSTICE FOR ALL」(88年)では「スネアが段ボール箱の音」「ベース聞こえない」などと批判も浴びながらも極限までドライな音作りに踏み切ったり、OVERKILLが「THE YEARS OF DECAY」(89年)でかなり肉薄するところまで来たり、PANTERAのダイムバッグ(当時はダイヤモンド)・ダレルがトランジスタアンプによるウルトラハイゲインでまた革命を起こしたり...という流れがあったところに「破滅へのカウントダウン」はリリースされたはずだった。
ギターのみにとどまらずドラムもベースもヴォーカルも、すべてのパートで中音域がザックリと削り取られていて、オーディオ的には間違いといえるくらいの極端な処理だったものの、MEGADETHの冷徹でメカニカルな曲と演奏(ミリ秒単位のズレを測ってはリテイクしまくる地獄のレコーディングだったらしく、結果は細部まで本当に完璧)にはよく合っていたし、ローとハイミッド以上の乖離によるものなのか、どこか距離感を狂わされるような独特のドライブ感もよかった。それがである。

今もゴリゴリに現役で新譜を作っている彼らだから、当人たちの意思も入っての今風な改変なのかもしれない。当時はやり過ぎた、ちょっと失敗した、と思っているかもしれないし。だがそうやってすっかりふくよかで臨場感あふれるバージョンに変化した2018リマスターは、収録曲の本質的な良さを損なうことはないまでも、「当時のバンドが時代に対してどの角度で物申したのか」はほぼ黒塗りになってしまっている気がする。
ちなみに2012リマスターも存在していて、そちらは色付けにかかわる中音域のバランスに劇的な変化はないものの、とにかく圧を高めようとしてキック一発から分かりやすく潰れてしまっている系の、典型的なイマイチパターンであった。
それらしか触れたことのない新参ファンがいたら、是非92年オリジナルの音源を入手してみてもらいたい。老害が一番言いそうなフレーズキマりました。だけどオリジナルだけが動かぬ事実であると割り切らなければ、いくらでも作れる後出し改変にいつまでも踊らされるじゃないですか~。お布施も大事だから、買える人は何アニバーサリーエディションでも引き続き買っていってくれるのがバンドのためだけども。

ちなみに、メタル界における「せっかく興味深い試行をしたのに当人たちにしてみればただの迷走で、のちに無かったことにされる悲しいパターン」は他にも存在している。
いま思い出すマイ・モースト・悲しいは以下の2つ。

ひとつは断トツでジャーマンスラッシュの古参DESTRUCTIONのシミューア不在時代。旧ブログからくどくど書いてますが。
名作と名高い88年の「RELEASE FROM AGONY」での、ツインギター体制で緻密な展開を盛り込んだスタイルをベースボーカルのシミューアは好まず、バンドを脱退してHEADHUNTERを立ち上げる。残されたバンドは後任者を迎えて存続するも、90年代に入りメタルシーン全体の状況が悪くなり契約を失う。
そんな中で自主リリースした2枚のEP「DESTRUCTION」「THEM NOT ME」と1枚のフルアルバム「THE LEAST SUCCESSFUL HUMAN CANONNBALL」、これが本当にユニークで最高。
PANTERAに感化されながらもモロパクリではない、ちょっとMESHUGGAHやヌーノ・ベッテンコートに通じる変態性も漂うハイテクグルーヴスラッシュをやっていて、どこからどう聴いても素晴らしいのだけど、まったくリイシューの気配がないままロシア製のリプロ品がDiscogsに流れてきて世のコレクターのウォントリストを攪乱している状況。3枚中唯一フィジカルで所持していない「THEM NOT ME」、いくらかで譲って下さる方連絡ください。(後日註:結局やんわりプレミア価格の正規盤を購入しました)

もうひとつはスイスの大魔王CELTIC FROSTの88年作「COLD LAKE」。ゴシック/ブラックメタルの父のはずの彼らが突如コマーシャルなヘアメタルに染まろうとしてしまった問題作で、これがリリースされた頃のBURRN!誌には「ケルトの霧がLAの太陽に消えた」とか何とか書いてあった気がする。
聴いてみると、ボーカルは全然あのダミ声(例のウッも調子よく出てくる)で、リフの薄暗さも全く拭い去りきれていないのだけど、ノリだけがたまにHUEY LEWIS & THE NEWS風。チグハグ具合がスカンジナビアのデス&ロール界隈ぽくて面白い...などと感じるのは少数派なようで、世間からの評価はもちろん散々、中心人物トム・G・ウォリアー本人をもってしても「人生において圧倒的に最悪な作品」「完全なクソ」「おそらくヘヴィミュージックシーンでこれまで作られた一番最低なアルバム」とエクストリームな評価が下っているとの事。後年のリマスター再発からもこのアルバムだけ漏れており、今後もCD・LPはますます貴重になっていくと思われるので、興味をもった人は見たら買い。

以上でした。