2021/02/25

HM/HRだいたい何があったか(3)80年代前半のサブジャンル確立

(2)からの続き。やり始めたからには完走します。

1980年代 - サブジャンル編

メタルの黄金期といえば、「これがメタル」という基本型が確立されてから、ビッグヘアーなポップ寄りのバンド群がお茶の間に進出し、更に伏流の過激派もたくましく進化を遂げてオーバーグラウンドでの成功へと向かうこの時期。裾野の広がりに比例して、細分化も進んでいった。

ヘアメタル、グラムメタル、ポップメタル

1) 黎明期

シンプルなリズムにNWOBHM以降のマッチョ感がやや漂うこともあるリフワーク、シンガロングしやすいキャッチーなフック、それらを可能な限りグラマラスに盛ったパーティ仕様のスタイルをアメリカのMOTLEY CRUERATTらが大成。MTV世代のヤングの間で大いにウケて、音楽性もルックスもよく似たバンドが急速に増殖する。
ヘヴィメタル/ハードロック界で80年代に最も商業的成功を収めたのはこの一群。日本では長らくこの手のバンド群をLAメタルと呼んだが、それは日本特有の呼称で海外には通じないらしいというのが現在の定説。
「ヘアメタル」の呼び名は、界隈のバンドがこぞってフワフワにボリュームを出したロングヘアにしていたことから。

欧州的なメロディを重視したDOKKENがいたり、JOURNEYなどのメジャーロックバンドに引けを取らない洗練されたポップ性をもつNIGHT RANGERがいたりと、振れ幅は割と広い。
イギリスからはNWOBHM出身のDEF LEPPARDが頭一つ抜きんでて、アメリカでも成功を収めたほか、元DEEP PURPLEのデイヴィッド・カヴァデイル率いるWHITESNAKEが、ブルーズ指向のシブめな音楽性ながらシングルヒットと天性のセクシーさに恵まれてファンを魅了する。
叙情派ハードロックだったドイツのSCORPIONSも徐々にスタジアム仕様に転身し成功。

2) 成長期

AC/DCやFOREIGNERも手掛けていたプロデューサーであるロバート・ジョン・"マット"・ラングDEF LEPPARDがタッグを組み、1983年発表のアルバム「PYROMANIA」で大成功。そこで見せたゴージャスなオーバーダブやコーラスワーク、突き抜けてポップなソングライティングが、アルバムの好セールスも手伝って当時の売れ線スタイルの定番テンプレートとなる。

また日本から火が付いたBON JOVIがヒットメイカーのデズモンド・チャイルドと組んで成功を収めたり、VAN HALENが「1984」で大胆なポップ化を図り賛否両論を呼ぶものの過去最高のヒットを記録するなど、ポップスとしての洗練がシーン全体で深まっていく。

ちなみにAOR側からもマイケル・ボルトンやらジョン・パーやら、こちらの畑に相当近いアプローチをとるアーティストが多数見受けられ、メタラーにとっての隠れ名盤がそうとは知られない形で多数埋もれている。

3) 円熟期

後述するロックンロール回帰ブームで少し潮目が変わるものの、基本的には80年代の終わりに向かってサウンドプロダクションのゴージャス化、シンセやシーケンスの導入などのハイファイ化が継続。この傾向はグランジに駆逐されるまで進み、ヒット曲もバラードがますます目立つようになる。最も美しい最終到達点はWINGERの1stだと思っています。JOURNEYの一番気持ちいい部分をハードめに凝縮したDANGER GANGER、リフもメロディもひとクセあるテクニカル派のTESLAらも見逃せない。
グランジが台頭すると存続不能なまでのダメージを被り、冬の時代を一周やり過ごしたのち、伝統芸能として復活・定着する。

正統派メタル、パワーメタル

1) ポストNWOBHM期

火付け役のIRON MAIDENや、パンクブームのさなかもメタルの炎を守り抜いたJUDAS PRIESTらが提示した音楽性が王道として定番化し、21世紀になっても通用している。勇壮で硬派で、ほどよく陶酔感や一体感を煽るメロディがあるスタイルが一般的。

早過ぎたドゥームメタルバンドであったBLACK SABBATHは、RAINBOWを脱退したアメリカ出身の名シンガー、ロニー・ジェイムス・ディオを獲得し、楽曲的にもメロディックな要素を増して王道メタル路線に接近する。(一方のRAINBOWはポップ化したのち1984年に解散)
そのロニーはスタジオアルバム2枚でバンドを抜けたあと、自身の名を冠するDIOを率いてシーンに戻り、2010年に67歳で亡くなるまでメタル界を牽引した。メタルに興味はなくともロニーの歌唱には人生のどこかで触れておいてもらいたいと思う。「大人のたしなみ」扱いで然るべき、魂の歌い手です。
UFOを脱退した元SCORPIONSのドイツ人ギタリスト、マイケル・シェンカーMICHAEL SCHENKER GROUP(MSG)を始動。オーセンティックな楽曲と、テクニックもさることながら泣きフレーズの応酬がトレードマークのリードギターで、世界のギターキッズに愛される。

NWOBHMから引き続きイギリスがシーンの中心にあったが、アメリカからもRIOTY&TMANOWARといったバンドが頭角を現す。正統派として触れられることが多い魔の王・真の男もといMANOWARは、実はQUEENばりの異端なので注意されたし。デスメタルバンドがカバーすると異様にかっこよくなる。

2) 80年代中期以降(裾野広がらない問題)

その他のサブジャンルと違って、オーソドックスであることが正統派の証であるため、奇をてらわずして魂に訴えかける大粒な楽曲、堂々としたヴォーカルと演奏、すなわち「シンプルな質の高さ」が正統派HMバンドに求められる要素になるわけだが、当然これはなかなかハードルが高い。
なおかつシングルヒット向きではない音楽性のため、無名バンドは制作環境に恵まれず、いざ挑んでも作品の仕上がりがチープになってしまうことがしばしば。
こうした条件により(推測)、先発の成功組に匹敵する後続はなかなか現れなかった。

スラッシュメタルが勃興し、他方でメロディックメタルがひとつの勢力になると、METAL CHURCHVICIOUS RUMOURSらがスラッシュメタル由来のリフの硬さを少し借りて、メロディック系とは質の異なる新・正統派を打ち出し、「パワーメタル」という言葉が聞かれ始める。
すべからくパワーをふりかざすのがメタルなのにわざわざパワーメタルという言葉があるのは、聴いてああパワーだなあ~と感じるという単純な構図のほかに、ノーマルなものを敢えて「ノーマル以外ではないもの」として隔離的に括る意味もあると思っている。

スラッシュメタル、スピードメタル

1) 黎明期

"Ace Of Spades"のスマッシュヒットでスタンダードの座に就いたMOTORHEADの荒々しいスピード感、悪魔的なイメージをバンドのコンセプトに据えたVENOMの禍々しさ・ある種の下劣さ・破壊性、その他NWOBHMやハードコアパンクの影響をしこたま吸い込んで、かの有名なMETALLICAができあがり、アンダーグラウンドシーンに衝撃を与える。
デビュー前から既にファンジン/デモテープシーンで話題を呼び、2作目のアルバムにしてメジャーのELEKTRAと契約したことも話題になった。MOTORHEADやVENOMといった先達が「多少雑でもブチかます」というやり方だったのに対し、METALLICAはノイズを排除し、スピードと攻撃性を完全にコントロール下に置くことでその強靭さを高めることを目指し、メタル界におけるクールの誕生ともいうべき大転換が起こった。

よりアグレッシヴな刺激を欲していたバンド群は皆METALLICAに感化されて、一段上をいく高速2ビートやバキバキした(=「クランチ」な)リフを習得。ニューヨークの刻み王ANTHRAX、デスメタルの直接的な原型を作り上げたSLAYER、フュージョンマナーを使いこなす敏腕ミュージシャンを集めて複雑&技巧的な試みを体現したMEGADETHほか、多くのバンドがアンダーグラウンドシーンを沸かせる。

2) 成長・多様化期

アメリカでは順調に第二・第三世代がデビュー。EXODUSOVERKILLなどの古参からTESTAMENTDEATH ANGELらの若手まで良質なバンドが出揃ってシーンの成熟が深まる。特にサンフランシスコ周辺のバンドが聴かせるトーンは「ベイエリア・クランチ」と呼ばれて人気を博した。
METALLICAは、粗暴で破壊的なだけではなく人間の内面の恐怖や絶望などに目を向けた歌詞づくりや、長尺で展開の多い大作志向、メロウな表現を駆使した振り幅の拡張に取り組み、スラッシュメタル(当人たちはそう呼ばれるのを嫌っていたようだが)を芸術性の高いものへと押し上げて引き続きシーンの先頭に立った。

マニアック化しやすいポテンシャルがあったスラッシュメタルはヨーロッパでも大いに受け、ドイツのSODOMKREATORDESTRUCTIONに代表されるような、長髪にガンベルトを身にまとったこわい人達が各国に急増する。
メロディ面で破綻していても曲としては成立する性質から、異質な要素を取り込みやすく、下記のような個性的な突然変異バンドがスラッシュメタルシーンから数多く現れた。

  • スイス随一の禍々しさを誇ったHELLHAMMERの後身・CELTIC FROSTは、12音技法的なリフにオーケストラや女性ソプラノなどを導入して暗黒めいた中世風の世界観を打ち出し、のちのゴシックメタル/ブラックメタル一派に多大な影響を与える。
  • カナダのVOIVODはKING CRIMSONを彷彿とさせる不協和音や唐突な展開を多用し、未だVOIVOD的としかいいようのない独自の音楽性を確立した。パワフルであることを完全放棄していた時期もあり、オルタナティヴシーン方面への影響も見受けられる。ちなみに彼らの一番好きなプログレバンドはVAN DER GRAAF GENERATORとのこと。
  • アメリカのWATCHTOWERは異常なハイトーンとフュージョンあがりのハイテクで異次元の変拍子メタルを突如大成。ドイツのMEKONG DELTAも現代音楽の音使いやプログレ譲りの大曲志向を技巧的なスラッシュメタルに持ち込んだ。
  • スウェーデンのBATHORYは、北欧神話やヴァイキングなどを歌詞のテーマに据え、霧深いイメージの不穏な楽曲スタイルがCELTIC FROSTと並んでのちのブラックメタルの原型となった。
  • ANTHRAX+NUCLEAR ASSAULT+M.O.D.のメンバーによる瞬間プロジェクトS.O.D.では、ハードコアパンクとスラッシュメタルの融合が図られてクロスオーバーブームを起こした(メタル界でクロスオーバーといえばその二者をさす)。なおかつ、それまでのシーン最速をはるかに凌ぐ超高速2ビート=ブラストビートが使用され、グラインドコアの礎の一端となる。

これらはいずれも現在のメタルシーンに直結する重要な要素となっている。

3) 円熟期

俺も俺もとスラッシュメタルスタイルに憧れるB級・C級~Z級の新人が後を絶たない中、先発のバンド群は演奏力が研ぎ澄まされてより複雑かつクリーンに成熟していくものの、「高速2ビート+クランチリフ」が必須のスタイルであるという制約の中で、徐々に飽和の兆しが見え始める。
メロディックな要素を強める者(CYCLONE TEMPLEほか)、ファンクメタルブーム(後述)に接近する者(MORDREDほか)、とにかく煮詰まって金太郎飴化する者(大多数)がどうなるどうなると手探りを続けているところに、リフの硬質感はそのままに「シンプルなグルーヴ」なる概念が持ち込まれてすべてがひっくり返る。詳しくは次の投稿で。

いっぽうで、円熟するには技量が足らず、90年代間近になってもドタバタと初期衝動をまき散らす一群もおり、「マイナースラッシュ」「カルトスラッシュ」などといって好むマニアが少なからず存在する。

メロディックメタル、様式美/ネオクラシカルメタル、北欧メタル

1) 黎明期

STEELERで衝撃のデビューを飾ったイングヴェイ・マルムスティーンは、ALCATRAZZであこがれのグラハム・ボネット(vo. / ex.RAINBOW)の相方を務めたあと自身のユニットRISING FORCEを結成し、よりダイレクトにクラシックとメタルを結びつける試みを続行する。
クラシック由来のマイナースケールとメタルサウンドはまさにブリと大根、551の肉まんと付属のからしの関係であることが知られるようになり、スウェーデンのEUROPE("The Final Countdown"でヒットするのと同一バンド)、オランダのVANDENBERGなど、ヨーロッパ各地から良質な叙情派メタルバンドが現れる。この頃の北欧メタルバンドはコマーシャルな成功への欲も全然捨てておらず、曲調にけっこうばらつきがある。

2) 基礎的スタイルの確立

BPM180くらいで疾走するツーバス、乱れ飛ぶツインリードのハーモニックマイナー、高音のロングトーンで歌い上げるヴォーカル、といういわゆる「メロディックスピードメタル=メロスピ」の原型が、複数の筋からやがてできあがってくる。

ひとつはドイツのHELLOWEEN。JUDAS PRIESTなどの試行をさらに先鋭化し、スラッシュメタル譲りの疾走感をメロディックな楽曲に持ち込んだ。初期はスラッシュ隣接型のスピードメタルと捉えられており、デビュー作品となったコンピレーション盤は「DEATH METAL」とのタイトルがつけられ、CELTIC FROSTの前身HELLHAMMERと一緒に収録されたりしていたが、歌唱力のより高いマイケル・キスクを迎えることでメロディック方向にめざましく進化した。
クラシカルな悲壮感だけでなく、ドイツ特有の覇気や明快感を帯び、やがて「ジャーマンメタル」として個別の山を築くところとなる。ただし地元民からはダサいと受け取られるのか、そうしたクセは次第に抜けていく。

もうひとつはイングヴェイ影響下のテクニカルギタリスト系。SHRAPNELレーベルを中心に、ギターのテクニック誇示と相性のよいクラシカルなスケールを高速メタルに取り入れた作品が数多くリリースされる。代表的なアーティストはヴィニー・ムーアトニー・マカパインなど(バンドよりもギタリスト個人名義が多い)。MR. BIGのポール・ギルバートを擁したRACER X、そのポールの後釜でMR. BIGに加入するリッチー・コッツェンもSHRAPNELの人。

先述のとおり「あわよくば一発ヒットを...」というキャッチーさと、新開発の叙情スピードメタルとがまだ氷水状に混在しており、型押し的な高純度メロスピの精製が完了するのは90年代になってから(後述)。

その他

1) プログレッシヴメタル

デビュー当初はJUDAS PRIESTの影響が色濃かったQUEENSRYCHEは、変拍子やシンセを導入したり、静・動の「静」にフォーカスした理知的で内省的な表現をメタルに組み込み、後続のFATES WARNINGなどとともに、のちのプログレッシヴ・メタルに通じる枝分かれを作る。

2) オカルティックなメロディックメタル、ドゥームメタル

スウェーデンのMERCIFUL FATEは、NWOBHMの余波の中、メロディックで荘厳だが泣き系ではなくただただ妖しい、BLACK SABBATHとは角度の異なる耽美的なオカルト感をもったメタルを掲げて現れた。
アメリカのSAVATAGEもそれに類する空気をもつバンドだが、のちにQUEEN的な美麗さ・大仰さとリンクしていき、スピードメタル系とはまた別のラインのダーク様式美メタルとして認知される。
このあたりの一派は、カテゴリとして明確に括る名称がない。単に「様式美メタル」と言われてしまうこともあるが、先述のメロスピとは大違いなので要注意。

似て非なるものとして、CATHEDRAL等90年代以降のバンドとは違う意味合いで「ドゥームメタル」と称されたバンド群がいた。
アメリカのTROUBLESAINT VITUSなどはBLACK SABBATHおよびその影響下のNWOBHMバンドのようなもっさり感を漂わせ、かつ様式美的要素はほぼない。
CANDLEMASSはスウェーデン出身とあって、同じく北欧出身のMERCIFUL FATE寄りの厳かさも持ち合わせながら、ズルッとした鈍いヘヴィネスと鬱成分がそれなりにあるため、ドゥーム扱いを受けることが多い。
「エクストリームメタルじゃないほうのドゥーム」くらいの感じで、ごく限られたバンドがこの系譜として認識されている印象。

3) 英米・ドイツ・北欧以外

スペイン、フランス、イタリア、ポーランドといった地域にもメタルバンドはもちろん存在するが、国際的成功を収めた者はほぼいない。スペインのローカルヒーローMEDINA AZAHARABARON ROJO、ANTHRAXによるカバーで広く知られることとなったフランスのTRUSTなどを有名バンドとして挙げるべきか否かはあやしいところ。西欧以外となると(80年代のあいだは特に)もっと難しい。
日本はどうかというと、LOUDNESSは海外のメタルファンにも認知があり、高崎晃をフェイバリットに挙げるギタリストも少なくない。エクストリームミュージック界にはNAPALM DEATHとも交流のあったSxOxBがおり、ワールドワイドな影響力を持った。


あともう少し80年代の話。(4)に続く。