2021/02/28

HM/HRだいたい何があったか(4)80年代中盤の細分化と小規模トレンド

(3)からの続き。一部90年代初頭のバンド名も混じっているけど、グランジ/オルタナティブでのリセット以前までということで。

1980年代(グランジ以前) - できごと/トレンド編

1) 社会からのメタルへの逆風とPMRCへの抵抗

ひと晩じゅうパーティーやらホットなギャルがどうやらこうやら、流血・破壊・殺戮やら、メタル(特に80年代当時)の歌詞の題材にロクでもないものがかなり多いことは否定のしようがない。いつの時代も「不良の娯楽」と目されてきたロックの中でもひときわタチの悪い存在といえる。

オジー・オズボーンJUDAS PRIESTの楽曲を聴いて若者が自殺をしたとして実際に裁判も起こったが、どちらもアーティスト側が勝利した。ただし別件でオジーはハトやコウモリを人前で食いちぎったり、古城に立ち小便をして御用になったりと、素行に問題ありであった。
全盛期のMOTLEY CRUEはガンガンにヘロインをキメながらライブをしていたとか、デイヴ・リー・ロスはステージ上に仕込みで置いておいたマリファナをライブ中「こんなところに草が!」と拾って吸うようなことまでパフォーマンスにしていたとか、まあ皆大概である(情報源は昔BURRN!やヤングギターで読んだインタビュー)。

そうした輩共による不埒なる音楽を取り締まろうと、アメリカの上院議員ティッパー・ゴアが設立したPMRCの働きかけにより、教育上問題があるとされる歌詞を含んだ音楽作品に「PARENTAL ADVISORY EXPLICIT LYRICS」のシールが貼られ、特定の量販店で取り扱われないなどの規制を受けることとなった。
しかしその判断の根拠(演奏者の素行はさておいて、基本的には歌詞が対象)がほとんど難癖でしかないこともしばしばあり、ミュージシャンvs.ティッパー・ゴアのバトルが勃発。80年代中頃~90年代にかけて、この規制のことやゴア個人のことを非難する曲が多く作られる。個人的になじみ深いのはANTHRAXの"Startin' Up A Posse"。私はこれでwhoreという単語を覚えました。(今思えばGoreと韻を踏んでいたのか...)

明らかな名指しでなくとも、TWISTED SISTERの"We're Not Gonna Take It"などに代表されるこの頃の「大人の言うことは聞かず自由になろう」的な曲は、ただ単に若者の家出心を煽りたいだけではなくこうした背景があったと考えると、ちゃんと中身のある主張だったんだなと思える。

2) ファンクにかぶれる

RED HOT CHILLI PEPPERSFISHBONEが骨太に仕上がってきた80年代後半頃から90年代初頭にかけて、メタルバンドがぎこちなくファンクやヒップホップを取り入れる例がにわかに頻発する。
とってつけたようなカッティング、ワキワキワキと切り込むスクラッチ音、行儀のよいスクエアなラップ、必然性のわからないホーンセクションなどがあまり馴染まず置かれているという例がほとんどで、野心は認められるもののナチュラルに融合できた者は少なかった。アメリカ産正統派メタルの雄・RIOTまでホーンセクションを導入し、ファンを当惑させる。
良い形で成立した例ももちろんあり、代表的なところはEXTREMELIVING COLOUR、(ハードコア畑だが)SUICIDAL TENDENCIESの別動隊INFECIOUS GROOVESなど。
なぜかスラッシュメタル界隈の一部において、新時代の進化の可能性としてファンクに賭けようとした者が目立った。MORDREDは正式メンバーにDJがいるとして話題になり、純スラッシャーとしてデビューしながらこの方向にも挑戦したDEATH ANGELの「ACT III」などは高い評価を得ている。24-7 SPYZも非常にかっこよい。ほぼ白人しか見当たらない状況であったメタル界において、黒人メンバーを含むバンドがよく活躍した時期でもあった。

3) ブルージーR&R回帰

ヘアメタルがどんどん豪華絢爛さを極め、どんな新人が出てきても皆同じという飽和状態になった頃、風穴を開けたのがGUNS N' ROSES
シンプルで危なっかしくブルーズ風味を効かせたロックンロールスタイルが、当時の流行から違和感なくスライドできる位置に出現し、しばし忘れられていたルーツ感が新鮮に映ったこともあって急速にアメリカンハードロック界のブームとなる。
CINDERELLAなど、それまでもう少し湿り気のあったバンドもこの方向に走ったり、BON JOVIのリッチー・サンボラが「ルーツはブルーズ」と言い出してそういうソロアルバムを作ったり、元オジーバンドのジェイク・E・リーが名シンガーのレイ・ギランとタッグを組んだBADLANDSのような本格派が現れたりと、かなりの活況を見せた。それっぽくはあるがそこまでブレイクしなかったバンド群が、レーベルでいうとMCAに多い印象。90年代に入るとTHE BLACK CROWESがオルタナ畑も股にかけて人気を博す。

もともと作法が確立されきった音楽スタイルであったからか、いったん定着したあとはさほど発展せず、後述のアンプラグドブームともクロスオーバーしながら次第に収束へ向かう。

ちなみにSHRAPNEL系のギタリストのあいだでもブルーズ路線で頑張るケースが散見された。(SHRAPNELではないが)ゲイリー・ムーアが「弾き過ぎるハードロックブルーズ」に転身して以降より顕著になったかもしれない。リッチー・コッツェン(POISON~MR.BIGに加入しつつ充実のソロワークもある)は最も見事な成功例の一人。マイケル・リー・ファーキンスも忘れてはなるまい。
90年代には、後述するトリビュートブームとの合わせ技で、ブルーズのスタンダードをカバーするオムニバスアルバムもいくつか制作された。

4)プリミティブ系ミクスチャー

日本のバンドブームでも90年前後にこんな流れがあった気がするが、アメリカ市場での主な火付け役はJANE'S ADDICTIONとみている。
素っ頓狂な高音を使いがちな野性的ヴォーカルスタイルに、どうにも浮遊感があって落ち着かないコードづかい、ロックマナーの範囲内でできるファンク感、エネルギッシュでいてダラダラと盛り上がる不思議な呪詛感に南国感...といった要素を、エッジーなディストーションギターに合わせる小トレンドが確かに存在した。

ジャンルとして名前がつかないまま後世にも残らず、しかし掘るとたまに出てくるため、これはメタルなの?何なの?とディガーたちを困惑させていることと思う。このパターンのバンドはメタル系レーベルにも、TRIPLE Xあたりのオルタナ側にもいる。超マイナーながら思い出すといえばTRIBE AFTER TRIBEなど。

5) デスメタル/グラインドコア(黎明期)

スラッシュメタルとハードコアパンクのクロスオーバー界隈の進化はやがて一線を越え、非人間的なBPMと獣のようなヴォーカリゼーションを身につける。同時発生的にいくつものバンドが先鋭化を進めていったが、わかりやすい形で別次元に逸脱したパイオニアはイギリスのNAPALM DEATH。ほどなくNAPALM DEATHの元メンバーのバンドであるCARCASSもデビューし、もはや音楽ではないと思わせる限界越えのきたなさでシーンを驚かせる。
ほぼ同時期、アメリカのフロリダを中心とするシーンでも、スラッシュメタルの進化系として超高速2ビート(ブラストビート)、低音で唸る下水道声(ガテラルヴォイス)、生命を破壊する側・される側の生々しい描写の入った歌詞などを扱うバンドが複数同時発生。TERRORIZER(最重要)から発展したMORBID ANGELOBITUARYCANCERなどのバンドにアングラシーンは沸く。
これらの総体がいつからかデスメタル、ハードコアパンク寄りのものはグラインドコアと呼ばれるようになり、英米から世界各地に増殖をはじめる。
最初期のバンドは80年代にデビューしているが、めぼしい第二世代の登場と分化・強靭化が進むのは90年代に入ってから。最大の功績は、完成度や洗練を良しとする価値観を破壊し「まともじゃないところにも表現がある」という意識を根付かせたことで、とんでもない冒険的な試みを世界中のバンド達から引き出すことになる。デスメタル拡大初期のシーンを覆うこの「逸脱の喜び」の勢いは凄い。

6) インダストリアルメタル

80年代末、MINISTRYのメタルへの接近、NINE INCH NAILSの登場などがメタルシーンから意識されるところとなり、英国が誇る極悪音楽の総本山・EARACHEから現れたGODFLESHが、激重リフをリズムマシンにのせて演奏するインダストリアルメタルを提示する。
アンダーグラウンドシーンを中心に後続が現れて小ブームを起こすものの、打ち込みドラム+メタルリフという形式だけ成り立たせて終わっているなど、非・人力の編成を選んだ必然性を示すに至らないケースも多く、独自に進化を続けるNINE INCH NAILSやGODFLESH=ジャスティン・ブロードリックに引き離されて、ほとんどのアーティストは試行錯誤に終わった。


以前このまま90年代まで1ページにまとめていたものを、長すぎたため後日分割しました。(5)に続く。