2024/01/14

90年代作品の後年リイシュー(REAL GONE MUSIC、MUSIC ON VINYL等)はどうなのか

新時代に呼応するフレッシュな音楽的野心を胸に、スコット・トラヴィス(Ds)を連れてJUDAS PRIESTを脱退したロブ・ハルフォードによって結成され、ダーク&ヘヴィなモダンメタルのフィールドで強力なアルバムを2枚残したFIGHTのことを、2024年の今もずっと思っている。

93年の1st「WAR OF WORDS」は当時のオリジナルLPを入手済み。ラス・パリッシュ(=STEEL PANTHERのサッチェル / G)脱退後の2nd「A SMALL DEADLY SPACE」のアナログはもともとブラジル盤しかなく、ウルトラレアなので探そうとすることもなく所有を諦めていた。
2020年、再発専門レーベルREAL GONE MUSICのレコードストアデイ限定アイテムとして、「A SMALL DEADLY SPACE」のレッドマーブル仕様LPが発売されたのだが、FIGHTの存在自体が当時から賛否両論だったうえに、2ndは1stのシャープ&ソリッドさがより(メタラーから不人気な)グランジ然とした陰鬱さに置き換わっていたこともあってか、2024年現在も大してプレミア化することなく流通している。いや再評価しましょうよ現代メタラーの皆さん、20年前から言うてますが。
1stだけLPを持ってるのも揃いが悪いし、まずまずのお手頃価格で遭遇したので、このほど2ndのほうも購入してみた。わたしの初REAL GONE MUSIC盤。

IMG_0982.jpg

いつも中古ばっかり買ってるからシュリンクを自分で解くこともそうないよなと、ゲートフォールド仕様にもかかわらず最初はシュリンクを右端だけ切って残してみた。(のちにそれを全剥きすることになった経緯は後述)
「音質の違いはどうあれ、アナログサイズの物質を持ってるのが嬉し~」よりも「一生のうちに何度聴くかは別として、この作品のロスレスなオリジナル(に近い)バージョンへのアクセス権を確保できて最高」が圧倒的に勝るため、棚に収めて安心することはなく、まず聴き比べ。
第一印象「??」。

夜にかなり小さい音で聴いたのが悪かったのだけど、アナログらしいバランスにはなっているものの、単純にCDバージョンのプレゼンス(トレブルより上の高音成分)を丸めただけのようにも聞こえる。
このアルバムは、ギターの歪みのハイミッド付近がちょっとラインっぽくゲショゲショしていて、プレゼンス成分込みで野蛮なモダンディストーションになっていたはずが、この改変だと単に意図せずクリップしちゃってるのと大差なくなってしまっているように感じる。
CDの16bitだと若干ツブ感があった(ことがアナログと比べて初めて認識される)リバーブ成分が見事にリキッド状につながっている...という、割とハードル低めなはずのアナログ特有の感慨もあまり感じられず。つまるところ、EQバランス変更でCDの音から情報量が減ってるだけでは?との疑念が。
出荷状態のままであってももしかして、製造工程で混入不可避なホコリが発売から数年のうちに溝に定着しているかもしれないと、アルカリ電解水のちマイクロファイバー布のコースでキレイにするも、変化なし。

閑話休題。同じ93年にリリースされたカナディアンスラッシュの雄・ANNIHILATORの「SET THE WORLD ON FIRE」もリリース年以来初めて、2022年にクリアブルー仕様、その翌年に黒盤で、これまた再発専門レーベルMUSIC ON VINYLからアナログリイシューされている。
在庫整理のためか、いまア某ゾンで新品のストックがちょっと安くなっていて、中学時代の所持CD総数20枚以内の頃に手にした思い入れ深い1枚だしここは即ポチか...となるのを全力でこらえていたここ数日。

そしたらまさに今日、その再発LPからのリッピング音声をYoutubeに4Kクオリティ(ビットレート2160p!)で乗っけてくれた人が遂に現れた。
喜んでCDと比較したところ、そうあってほしくはなかったのだけど、FIGHTの2ndと全く同じ感想になってしまった。

この感じの改変ももちろん悪いことばかりではない。ANNIHILATORもFIGHTの2ndも、日中に大きめの音で聴いてみたら、90年代特有のパツパツに詰まった高音成分がマイルドになった分、大音量でもヅシャヅシャうるせ~~とならず、ボーカルに対するボトムの存在感が増して全体的に分厚く聞こえる。リスニングする時はそりゃ可能な限り音デカくして聴きますよ、という人には好適かもしれない。

しかしここでやっぱり疑問なのが、CDより情報量が減ってるだけかもしれない点。
残しておいた「A SMALL DEADLY SPACE」のシュリンクをやっぱり解いて確認したところ、ゲートフォールド内側のクレジットにも、むろん外装のハイプステッカーにも「オリジナルマスターを使用」みたいなことはどこにも書いてない。ちなみにANNIHILATORのほうもハイプステッカーの文字が読み取れる画像を探したけど(執念深い)、やっぱりマスターテープについては言及なし。
ついでに「NEWLY-CREATED GATEFOLD ART」とハイプステッカーでわざわざ謳われている見開きアートワーク、よく見れば歌詞部分以外のメンバー写真などはオリジナルデータからの出力ではなくスキャンである様子。外側ジャケの解像度は表裏ともに大丈夫なのだけど。

IMG_0984.jpg

上がLP、下がCD。写真では分かりづらいが、アウトラインデータとビットマップデータの差が文字部分で顕著にある

オフィシャルライセンス品であることだけは確かながら、これでは「音声はCDからリッピングした16bitデータを使用しました」だったとしてもおかしくないし文句も言えない。もしそうなら、CDの音にイコライザーを通して自力で調整したのと何が違うのか考えてしまう。
または全然誤解で、ちゃんとオリジナルマスターを使っていたとしても、アナログ媒体の良さを発揮できる高音域の無天井な解放感(低域のアタックの鋭さもこれとワンセットだと思っている)をばっさり捨てて、「ファットでウォーム」的なイメージに寄せる改変はどうも安易に思える。オールデジタル制作を謳歌するような強調気味の高音成分とそこからくるドライ感は、間違いなく90年代音源の醍醐味なのだから。当時盤のLPだと時々、ギターのトレブルに当たる辺りの、聴感上の派手さを担う帯域をCDよりちょっと抑えて、代わりに金物のプレゼンスのサラサラ感が際立つバランスになっているものはしばしばあって、そういう調整なら「単純に情報量が減ってる」とは感じないのだけど。

ということで実物1点とオンライン音声のみをサンプルとした判断でいささか早計ではあるものの、こういうケースもあるということで、オーディオ的にオリジナルに近いことに価値を見出してアナログを買い求める向きはご参考までに。