2021/02/28

HM/HRだいたい何があったか(5)90年代以降の様相

(4)からの続き。80年代のメタルバブルが突如終了し、純粋な前進・発展と生き残りをかけたトレンド迎合とが入り混じって、大きな変化がいくつも起こる頃から現在にかけての話。このページ前半の内容こそがこのシリーズのメイン部分です。

1990年代初頭~中盤 - できごととサブジャンル

1) ブラックアルバムとPANTERA、グランジ/オルタナティヴ

90年代初頭に起こった、NWOBHM以来の大事件。4作目「...AND JUSTICE FOR ALL」で複雑・大作路線の頂点を極めたMETALLICAの次の一手は、シンプルながら目一杯ヘヴィなリフをミッドテンポで刻む、飾りのないストレートなスタイルだった。1991年リリースのセルフタイトル5thはほぼ真っ黒なジャケから「ブラックアルバム」と呼ばれ、"Enter Sandman"をはじめ大量のシングルカットを放ち爆売れする。
その前年にもPANTERAが、ハイトーンパワーメタルから方向性を一変、スラッシュメタルの技巧性や鋭く重いリフをグルーヴ重視のコンパクトな楽曲に落とし込んだ「COWBOYS FROM HELL」をATCOからリリースしており、界隈のバンドのほとんどはこの一連の動きに追従した。
日本ではジャンルに対する形容なのか何なのかわからない「モダン・ヘヴィネス」なる語でこのあたりの感じが括られる。海外ではどうなのだろうか。音楽をヘヴィネスと呼ぶのがおかしいし、モダンは時間が経てばモダンではなくなるから、個人的にはこの言い方は避けている。

同じ時期、ヘアメタルの飽和と急激な景気悪化が重なったところに、ネガティブな現実を歌うグランジ/オルタナティブの波がシアトルから全米、やがて世界を席巻。中でもメタル度の高かったALICE IN CHAINSは、スローダウンしてヘヴィグルーヴ志向に転身を図ろうとしたメタルバンドのまさに目指す姿を提示し、ヘヴィミュージック界にはPANTERAみたいなバンドとALICE IN CHAINSみたいなバンドがゾロゾロと溢れ返る結果となった。

ほかにも、硬質であることを諦めてPEARL JAMを手本にしたり(PEARL JAMも案外ガンズあたりの延長線上とつながるところが無きにしもあらずで、ハードロックとの相性は悪くない)、ヘヴィでも陰鬱でもなくSTONE ROSESみたいになったりと、けっこう信じられないくらいの大物バンドまでもが、生き残るために大幅な路線変更を敢行した。
跡形もない身売りとなるか、センスとキレで説得力を保つかという、転身の成功度合いはバンドにより大きく異なるところで、80年代を迎えたプログレバンドと同じようにさまざまな人間模様をみることができる。
日本のメタル誌はこの変化を歓迎しなかったが、ANTHRAXMOTLEY CRUEなど、変わり果てても傑作を作ったバンドは少なくない。

2) トリビュートブームと70年代リバイバル

QUEENのフレディ・マーキュリーの逝去を受けて1992年に開催されたトリビュートコンサートには、METALLICA、EXTREME、DEF LEPPARD、U2、GUNS'N'ROSESなど錚々たるメンツが出演した。
70年代回帰の気運やグランジムーヴメントの中でBLACK SABBATHLED ZEPPELINKISSなどが再評価されるようになり、往年のバンドのカバーを収録するトリビュート盤の制作が流行した。この頃活動したバンドのベストアルバムなどを手にすると、意外なカバー曲が収録されていることが多いかもしれない。
強烈だったのはEARACHEの主要バンドが勢ぞろいしたBLACK SABBATHトリビュート「MASTERS OF MISERY」。

この流れから、おもに70年代の名バンドのエッセンスをちょいと拝借する動きも少し活発化した。
特にQUEENは特定の要素(多重コーラスや3重以上のリードギター、コード使いなど)をそろえれば雰囲気を醸し出しやすく、EXTREME(特に3rd「III SIDES TO EVERY STORY」)、ロビー・バレンタインVALENSIAといったあたりから、オルタナティブシーンでもJELLYFISHが2ndでガッツリ染まるなど、よく参照された。
BLACK SABBATHは後述するスラッジメタル界の唯一神として人気が高く、生き延びるため陰鬱系に転身したメタルバンドの多くがサバスの名を口にした。

3) アンプラグドブーム

いつもは普通に大きな音で演奏しているミュージシャンの、アコースティック編成でのライブ映像を流す「UNPLUGGED」という番組がMTVで人気となっていた。ルーツミュージックへの再注目、80年代の栄華が消え去ってシンプルで地に足の着いた表現が受け入れられるようになった空気など、いろんな要素があって流行ったものと思う。

その影響か、とにかくシンプルなアコースティックバラードが流行りやすくなり、EXTREMEの"More Than Words"やMR. BIGの"To Be With You"もこうした流れとおそらく無縁ではない。
またALICE IN CHAINSの「SAP」「JAR OF FLIES」など、アルバムやEPがまるまるアコースティック仕様という企画作品も多くなった。メロディックメタル界も例外ではなく、デンマークのPRETTY MAIDSは2枚もアコースティック作品を作った。QUEENSRYCHEがアコースティックバラード"Silent Lucidity"の大ヒットからMTVアンプラグドへの出演を果たしたというのも今思うと凄い話。

4) デスメタルから各種エクストリームメタルへ

限界越えの過激さを突き詰めたデスメタル界隈では、比較的早めの段階で次なるアプローチが探られるとともに、ヘヴィ&ダークを良しとする世の風潮を追い風に、アンダーグラウンドで爆発的な広まりを見せた。
多様化が進むにつれ「デスメタル」と一括りにするのが難しくなり、さまざまな極端さを突き詰めた支流全体をまとめて「エクストリームメタル」と呼ばれ始める。

ドゥームメタル/ストーナーロック

元NAPALM DEATHのリー・ドリアン率いるCATHEDRALは、世界最速から一気に真逆のアプローチ、すなわち世界最遅のドゥームメタルを編み出し、そこからさらに70年代風味を強調したストーナーロックへと発展していく。MELVINS以降のスラッジとも相性がよく、アメリカ南部にはそれらが混然一体となったシーンが形成されたほか、なぜか北欧でもウケが良かった。FU MANCHUEYEHATEGODKYUSSなど。
いっぽう極初期CATHEDRALの路線に忠実に、更に遅さと厳かさを求めた一派はフュネラルドゥームと呼ばれたりする。THERGOTHONTHORR'S HAMMERなど。

ゴシックメタル

イギリスのPARADISE LOSTMY DYING BRIDEANATHEMAほか多数のバンドが同時多発的に、CELTIC FROST直系の陰鬱かつ荘厳な低速デスメタルを開発する。ドゥームとは似て非なる中世風の美しさがあり、PARADISE LOSTのリリースしたアルバム「GOTHIC」が決定打となりゴシックメタルとして広く認知される。
欧州全域のアングラシーンで非常に強い勢力となり、不規則編成を取り入れたアヴァンギャルドなものから、デス声を放棄した聴きやすいものまでさまざまな形に進化する。BEYOND DAWNTHE 3RD AND THE MORTALなどはオルタナに接近しながらプログレ感もある時代の先鋭だった。いっぽうキャッチー寄りの一群は80年代ニューウェーブの流れのいわゆるゴスのような形に近づきやがて飽和。エレクトロな要素や女性ボーカルの導入が流行った。

スウェディッシュデスメタル

イギリス・アメリカに次いでスウェーデンでもENTOMBEDDISMEMBERなどにより独自のデスメタルシーンが形成される。豪快な爆走感が特徴。アメリカではフロリダのMORRISOUNDスタジオのスコット・バーンズジム・モリスがデスメタル生産工場と呼ばれたが、スウェーデンではトマス・スコッグスベルグSUNLIGHT STUDIOの組み合わせで多くの名盤が作られた。

メロディックデスメタル

CARCASSが1993年発表4th「HEARTWORK」で敢行したメロディック化と、SENTENCEDAMORPHISEDGE OF SANITYAT THE GATESなど北欧シーンのバンドによる変革が同時に起こり、DARK TRANQUILLITYIN FLAMESの登場をもってメロディックデスメタルブームが決定的となる。
CHILDREN OF BODOMの登場あたりから正統派メタルとしての機能も備えはじめる。

テクニカルデスメタル

デスメタル最初期から活動していたチャック・シュルディナー率いるDEATHが、最強メンツを揃えて異次元のテクニカルデスメタルを提示する。界隈のバンドであったCYNICATHEIST、オランダのPESTILENCEなど多くの良質なバンドがそれぞれのやり方で名盤を残す。
「METALLICAが4thアルバムの後にやるはずだった音楽」を標榜して現れたスウェーデンのMESHUGGAHは、異様にテクニカルでドライなスラッシュメタルであったところから一歩踏み込み、短くループするギターリフとその他の要素が径の異なるギアの如くずれながら進行する「クロスリズム」の手法を突如大々的に導入。PANTERAを凌駕するヘヴィネスと圧倒的な演奏力で度肝を抜くも、高度過ぎて何年ものあいだ誰も真似できなかった。

ブルータルデスメタル/グラインドコア

上記のような細分化に対して、80年代のパワーメタル同様の原理で、オーソドックスなデスメタルは「ブルータルデスメタル」と呼ばれ区別される。CANNIBAL CORPSESUFFOCATIONIMMOLATIONINCANTATIONなど、長期間現役として踏ん張っているバンドが多い。CRYPTOPSYの登場で速さの基準がワンランク上がる。
グラインドコアは元NUCLEAR ASSAULTのダン・リルカ率いるBRUTAL TRUTHがデビュー作で王道を示したあと、徐々にドラッギーで混沌としたスタイルにシフト。後続もそれに従い、きたない系トリップ派、きたない系臓物派(CARCASSフォロワー)、ひたすらキレ追求系に分かれていく。同時にHUMAN REMAINSのような極悪ハードコア文脈のバンドもほぼメタル畑のグラインドコアと変わらない状態となり、RELAPSE RECORDSにはそうしたバンド群がごちゃごちゃに混在した。

ブラックメタル

ノルウェーで、悪魔崇拝や北欧の自然を歌詞の主な題材とし、スラッシュ/デスメタルをより厳かかつ荒々しくしたような音楽性を追求するブラックメタルシーンが形成される。初期のスタイルには金切り声のような絶叫、ノーミュートでキリキリ刻むトレモロリフ、淡々と続くブラストビートなどいくつかの定型がある。代表的なオリジネイターはMAYHEMBURZUMDARKTHRONEEMPERORSATYRICONULVERなど。その後世界に広まり、とにかくプリミティブできたないもの、シンフォニックなもの、アコースティック/アンビエントスタイルのものまでさまざまな形態に発展。メタル界で最も柔軟に進化する一派となっている。
近隣のスウェーデンやフィンランド、その他オーストリアやアメリカでも、それらしい音楽性でブラックメタルを自称するバンドは多く現れるが、ノルウェーのオリジンブラック支持派(あるいはバンド自身)からはフェイクの扱いを受けることもあった。

補足:スラッシュメタルは?

スローダウンしたヘヴィグルーヴ一派か、過激化したデスメタルのどちらかにサーッと偏って、ど真ん中のスラッシュメタルは80年代スタイルのリバイバルブームが起こるまでほぼ空洞化した。
一時は絶滅が危ぶまれるも、スローダウン派と思われたTESTAMENTが腕力をアップして帰ってきたり、同じくSEPULTURAがブラジリアングルーヴとの融合でラップメタルブームへの橋渡しをしたあとシンガーをアフリカ系アメリカ人のデリック・グリーンに替え、オール南半球感を抱き込んだ新次元へと進化したり(賛否あるが断固支持)、MEGADETHVOIVODANNIHILATORは頑固に自ら開拓した道の先にしかない挑戦を続けて孤高化したりと、なんだかんだ80年代の人達が頑張って更新を続けている。オリジネイター世代のほうが何かあったときも柔軟に立ち位置を再定義できるというのが持論です。

5) メロディックメタルの進化

パワーメタル寄りの正統派界隈は相変わらずめぼしい大型新人に恵まれず、MARSHALL LAWのような優れたバンドも時代柄セールスには大苦戦し、代謝が鈍いまま。IRON MAIDENから長年の看板シンガーであったブルース・ディッキンソンが、JUDAS PRIESTからもロブ・ハルフォードが脱退してそれぞれ時代相応の表現に挑戦する道を選び(優れた作品を残したがメタルファンからはバッシングを受けた)、終わったか...という感すら漂う中、各国のインディレーベルが豪雨の中の聖火リレーのごとく良心的な作品をリリースしては、逆境に抗えず消えていった。RISING SUN PRODUCTIONS(米)、LONG ISLAND RECORDS(独)、NOW & THEN RECORDS(英)、ゼロコーポレーション(日)らがネットワークを組んで、良質だが垢抜けないマイナーバンドを世に紹介し続けた武勇伝は末代まで語り継ぎたい。

いっぽう叙情様式美の一派では、ブラジルからの超新星ANGRAなど、メタル不遇の時代にもめげず次世代バンドが次々登場。フィンランドのSTRATOVARIUSがリリースを重ねたあたりでメロディックスピードメタルの精製がほぼ完了する。先達の研究成果のおいしいとこ取りで出来上がったやや没個性的なものでもあり、レビューの点数をめぐってギタリストのティモ・トルキがBURRN!誌と喧嘩をするという事件が起こる。だが結局この没個性こそがメロスピとしての純度でもある。(STRATOVARIUSは1st・2ndのもっさり感がよかったのだが)
型ができあがった後は、後続のバンドがカーボンコピーをガンガン生産するように。

プログレメタル

別の線では、バークリー出身のプレイヤーが集まったDREAM THEATERがプログレッシヴメタルを一気に別次元へと進化させて、リスナーの度肝を抜いた。
RUSH、DIXIE DREGS、QUEENSRYCHEにWATCHTOWER、METALLICAなど雑多な要素を飲み込み、起伏豊かな長尺曲の中に配置しながらも強力なポップさを放つ1992年の2nd「IMAGES AND WORDS」は、今なおシーンきっての金字塔となっている。
初期DREAM THEATERのプログレメタルシーンにおけるピニオンリーダーぶりは凄まじく、シンセのトーンから曲構成の緩急に至るまで、ソックリあやかるバンドが続出。本家が3rd「AWAKE」で70年代風のオルガンやペンタトニックフレーズ、PINK FLOYDっぽいダラダラ感を取り入れれば、その後には「オーガニックなプログレメタルブーム」の小波が起こった。それらフォロワーバンドが残した作品群はのちの人々にとってはかなりの謎盤だろう。
テクニックもメロディも高度さが求められるプログレメタルは、ヘヴィ&ダーク化しないメタルミュージシャンにとって希望ある未来像として映っていたように思う。「IMAGES AND WORDS」と同路線でそれを凌いだ作品はちょっと思い当たらないが、また別の独自性を持ったENCHANTSYMPHONY Xなど良質なバンドも生み出した。

6) メロハーリバイバル

いかにもバッドボーイなヘアメタル界隈は、グランジの登場で表舞台からはほとんど一掃されてしまい、その後「懐かしのアレ」という好意的な扱いに転じる頃まで、勇気あるコスプレ野郎がたまに出てくる程度のアングラな存在となった。(TRIXTERがBEASTIE BOYSの曲を取り上げるカバーアルバムをリリースするなど、逆境の中で気を吐く者もいた)

もう少しメロディックな、JOURNEY的ないわゆるメロハー=メロディアスハードロックは、いつの時代も人の根源的な何かしらを満たすものとして必要とされるらしく、HAREM SCAREMWARRANTMASQUERADEらが90年代的な骨太感との共生に挑戦する傍ら、先述のLONG ISLAND RECORDSやNOW AND THEN RECORDS、MTM MUSICなどのマイナーレーベルを中心に新人がちゃんと現れ続けた。大きなうねりというほどの規模感ではなかったものの、競うようにその手の新作がリリースされる継続的な流れがあったことを記憶しておきたい。

1990年代後半 - グランジ禍収束以降

メタル目線の物言いということで敢えて「禍」としておく。

しばらくはメタル専門誌でも「栄光の80年代のようにオーバーグラウンドを奪還するには」的な論調が残ったが、やがてサイズダウンしたなりの囲いの中で、新しい形の活況を呈するようになってきた。

1)短期間のトレンド

グランジ明けのパワーポップ

90年代半ば過ぎになるとオルタナシーンは陰鬱化の底を打ち、FOO FIGHTERSやメロディックパンクなどもう少しエネルギッシュなものが浮上する。相変わらず生存のために脱メタルを図る者は多く、パワーポップ的なものが人気の転身先となる。ポール・ギルバートENUFF Z'NUFFなど、もともとの嗜好がトレンドと合致した者は、この時期にも充実した作品を残した。そもそも彼らがメタルに縛られていなかっただけなのかもしれないが。

ポストインダストリアル・半機械メタル

同じく90年代半ば過ぎ、世間ではMARILYN MANSONやTHE PRODIGYが現れ、インダストリアル的なものは引き続き人気を集める(日本ではデジロックと呼ばれたりしたのも今や懐かしい)。単にドラムパートをマシンに任せるのではなく、高度な人力演奏とデジタルな上モノを融合させる試みをFEAR FACTORYデヴィン・タウンゼントあたりがおこない、これが新世代の展望なのかという空気になってシーンをちょっとリードする。
JUDAS PRIESTを脱退しFIGHTでグルーヴメタルに取り組んだロブ・ハルフォードはTWOを結成、NINのトレント・レズナーによるプロデュースのアルバムを発表するも、メタルシーン、オルタナシーン双方の求めるものと違って短命に終わる。
そうこうしている間に、この半機械メタルの盛り上がり自体もいつのまにかウヤムヤになって消滅する。

ニューメタル/ラップメタル

古くはBIOHAZARDが種をまいたところに、KORNあたりが順調にビッグになっていき、LIMP BIZKITなど後続世代が続々と現れたことで、2000年前あたりからPANTERA系のグルーヴメタルとはまた異なるラップメタル(ニューメタルと呼ばれることも多い)がグランジばりに流行する。だが「ヘヴィリフ+ラップヴォーカル」という単純な構図ゆえ、ブーム初期から風化の予感がひしひしとあり、それなりのキャリアがあるメタルバンドが完全にそちらになびいてしまう例は少なかった。

2)メタルの進化と変容

エクストリームメタル/プログレメタルの王道化

デスメタル、ブラックメタルの細分化と進化が加速。メタルといえばエクストリームメタルのほうが優勢というくらいのバランスになる。
コテコテのメロディックデスメタルだったところからプログレ~オールドロックの要素を積極導入したOPETH、ケイオティックハードコアとの境界線上からスタートして次第にメタル史を総括するようなヒロイックで宇宙的なスタイルとなったMASTODON(元TODAY IS THE DAYのメンバーを含む)などは、オルタナ畑でTHE MARS VOLTAがプログレ紙一重のアーティスティックな音楽性で成功を収めたことも手伝って、メタルフィールドの外からも評価を得る存在となる。
また「ストレートなメロディックデスメタル」と「ヘヴィ&ダークなメロディックメタル」の差が紙一重となり、ARCH ENEMYIN FLAMES(3~4作目以降)、NEVERMOREのようなスタイルが2000年代の正統派となった感がある。

プログレメタルもようやくDREAM THEATERオマージュにとどまらない個性派が現れるようになる。エクストリームメタル経過型のヘヴィネスもいちツールとして巧みに使いこなされ、結果「メロディックデスあがりのアーティスティック派」と「ヘヴィネスを乗りこなす新世代プログレメタル」の境界も曖昧になる。CIRCUS MAXIMUSLEPROUSHAKENなどが盛り上がっている様子。

技巧性追求の激化

他の追随を許さなかったMESHUGGAHの音楽が次第に解析され、フォロワーが現れはじめると、彼らのようなスタイルがジェントと呼ばれるようになる。本家が8弦ギターを使い始めればフォロワーは9弦ギターを持ち出したりして、クロスリズムと多弦ギターの低音が若手モダンメタルの基本要素となる。新世代のヒーロー、トシン・アバシ率いるANIMALS AS LEADERSが最先端を更新した。
ジェント的な手法は90年代中盤以降の極悪/叙情系ニュースクールハードコアやエモ/スクリーモ、ハイテクフュージョンと結びついたメタルコア界隈で人気を博し、PERIPHERYPOLYPHIAといったバンドとそのフォロワーたちが今一番元気にやっている印象。

いっぽう昔ながらのブルータルデスメタルも、速さ・巧さの水準が20~30年前とは段違いのレベルとなった。REVOCATIONDECAPITATIONOBSCURAのような異様な音数のバンドがもはや珍しくない時代に。「何々とのクロスオーヴァー」の何々が思いつく限り試されているような状況で、度肝を抜くような抜かないような技術展が続けられている(これは典型的な老害の意見)。

旧正統派および伝統芸組

メロディックスピードメタルは豪華絢爛シンフォニック寄りのものがあったり、とにかくツーバス+ハイトーン+ピロピロツインギターを追求するものがあったりしながら、新旧バンド入り乱れて伝統を堅守し続けている。SONATA ARCTICADRAGONFORCEあたり以降の新星がいるのかどうか把握していません。なんだかんだずっとHELLOWEENやBLIND GUARDIANが王座に居続けているような。(メロスピに限らず、非エクストリーム系の旧メタルはその傾向がある)
日本では姫なのか嬢なのかといういでたちでメロスピを演奏するガールズメタルバンドが急増するという独自の道を辿る。個人的にはあまり受け入れられなくて未チェック。
正統派寄りだとSABATONのような、デスメタル以降のヘヴィネスを目一杯ヒロイックなスタイルで運用するバンドが成功を収めたりしつつ、IRON MAIDENやACCEPTのようなベテラン組への支持がずっと根強い。親子三代メイデンファンみたいな家庭もあるのではなかろうか。

そのほか、往年のNWOBHMやオールドスクールスラッシュ、ヘアメタルなど、いろんな時点のレトロメタルを切り出してレプリカ的に再現するリバイバルシーンが盛り上がる。WOLFTOXIC HOLOCAUSTMUNICIPAL WASTESTEEL PANTHERら以降どんどん新人が登場中。そこ突いてくるんかい!という隙が無限にあり、未だ勢いは収まらない。キリがないので全く追っていないけど、DEATHそっくりさんのGRUESOMEはいいなと思っている。
メロハーに限ってはJOURNEY以降ずっとレプリカがリアルなので、ブームとは関係なく平常運転。WORK OF ARTほか、北欧を中心に昔よりちょっと洗練された良質なバンドが大勢いる模様。

ブラックメタルのエンタメ化と先鋭化

本物の殺人や自殺、教会への放火など、シャレにならない話題性とともに欧州アンダーグラウンドを席巻したブラックメタルも、コアメンバー達が年齢を重ねるにつれ、そういう危険度は徐々に薄れていった(排他的な国粋主義と結びついた危ない一派も依然存在する)。
発祥の国ノルウェーではブラックメタルが半ば町おこしの資源的なことにもなっており、有名バンドが新譜を出すとなれば国内チャートのトップ10入りしたりするほど国民に広く根付いている模様。ごく近年では、ノルウェーブラック黎明期から活動したIMMORTALの元メンバー・Abbathが「かわいい白塗りおじさん」的なキャラとしてちょっと人気を博したりもした。
いっぽう、ULVERBEYOND DAWNVED BUENS ENDE周辺人脈やその影響下のアーティストやレーベルを中心に、異様にエキセントリックで他ジャンルとのクロスオーヴァーにも貪欲な、純アート派ブラックメタルのシーンが育ち、エレクトロ~アンビエント~時にはラウンジまで行ったり来たりしながら、実験的な作品を作り続けている。もはやトレモロリフやブラストビートが皆無な作品も多く、「独特の鬱感があるかどうか」「人脈や活動基盤や曲の詞世界にブラックメタルの影があるかどうか」でブラックメタルが認定がなされる感がある。

デス/ブラックメタル外郭組

ノルウェーではない地域の若手世代で、ブラックメタルの霧深いアブストラクト感だけをシューゲイザー的な表現その他と結びつけた「ポストブラック」「ブラックゲイズ」と呼ばる動きも盛んな模様。またデス/グラインドとエレクトロノイズを強力にマッシュアップしたような界隈も盛り上がっているっぽいけどもはや名前が分からない。そうしたあたりをまとめて巷ではポストメタルと呼ばれている様子。ブラックメタル・ミーツ・4ADを突然やって衝撃を与えたフランスのALCESTや、イギリスのDEAFHEAVENなど。モダンメタルを真剣に追っている向きにはここが最重要スポットと思われる。個人的には全く疎く、強力に追っている人がたくさんいるはずなので字数少なめで。

そういえば、これまで何十年と変化を続けてきたメタルが、ほぼ一度もおおっぴらに「ポスト」になっていなかったのは意外なことでもある。ポストロック文脈のDON CABALLEROはメタルのシルエットをもつ非メタルを、フィンランドの極彩色集団CIRCLEはメタルを愛し過ぎるがゆえの巧妙な切り刻み方でクラウトロック化したものを世に突きつけてはいたが、誰もそこから型を取れなかったため孤高であり続けた。そっちのほうを個人的には探し続けてゆきたい。


あくまで90年代の珍現象とそこに至る経緯を本題として書き始めたのと不勉強とで、90年代後半以降の話はごく浅め。(これで知った顔しているのではないという点のみご了承いただきたい)
ともあれ長文お疲れ様でした。