2022/02/02

CHARISMAブルーラベル、実際どうなのか

検索でたどり着いていただいたGENESISファンの皆様およびプログレッシャーの皆様こんにちは。こちらは高校時代にDefinitive Edition RemasterシリーズのCDをひとしきり買い揃えてから四半世紀を経て、ピンクマッドハッターUK盤またはピクチャーレーベルUS盤のLPを買い足している者です。

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オリジナルにこだわりだすと初期作は万単位の世界になってしまうので、リプレス品は厭わない方向で、70~80年代のスタジオアルバムおよびライブアルバムをひととおり収集完了。(「WE CAN'T DANCE」はDiscogsで監視中)
その中で「TRESPASS」「NURSERY CRYME」の2作は思い入れが薄くて、一旦は80年代プレスのいわゆる「ブルーラベル」で手を打ってみた。
...ものの、元々さほど録音/ミックスのクオリティが素晴らしいとはいえないこの2枚。そのフラストレーションがどうにも「もしこれをピンクマッドハッターで聴いたら...」という妄想につながってしまう。
心の名バンドGENESISに限って、そうした小骨を残したままではよろしくないため、結局この2枚もピンクマッドハッターへの買い替えを実行した。

となると皆さんと共有すべきはブルーvsピンクの音質比較、これです。以下よろしくおねがいします。

「NURSERY CRYME」UKセカンドプレス(推定72年)とUKブルーラベル(推定84年)比較

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リリース順はこちらが後だけど、こちらから。
まず中域のカラーは両者とも変わらない。高音の伸びもそんなに変わらない。
低音は、ブルーラベルのほうがやたらボスボス出ている。"Harold The Barrel"のような曲で比べると顕著。情報量が多いというよりは、コンプ感が増して低域が押し寿司になっている感じ。

ピンクマッドハッターセカンドプレスのほうは単純にそうなっていなくて、行儀がよい印象。ラウド感を足されてない分、大音量でも聴きやすい。

そんなに下世話な改変ではないし、少なくとも劣化ではなく、個人の好みではあるけど、エンジニアの良かれが反映されている感じがしてやはりブルーラベルは「加工後」、ピンクマッドハッターが「加工前」な印象は否めない。
アナログを手にする目的がオリジナルマスターに近づくことならば、このアルバムのブルーラベルは微妙なチョイスかと思った。

「TRESPASS」UK初期プレス(推定72~74年)とUKブルーラベル(推定84年)比較

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やっぱり古い方が正解なんじゃん、と思いかけたところに「TRESPASS」が立ちはだかった。

まずピンクマッドハッター。制作年代なりのモンヤリと曇った高音(盤面はちゃんとキレイにしたのでホコリのせいではないと思われる)。まだフィル・コリンズが叩いていないから、よけいにキレがなく感じるのかもしれない。
続いてブルーラベル。おや?変に荒々しさは加えないまま、高域が若干明るくオープンになって、つられてキックなんかも明瞭さが増している。べつにトレブル以上がヅシヅシとうるさいわけではなく、単純に良い。ちょっと~。

比較対象のピンクマッドハッターが(ブルーラベル以前のものとはいえ)リプレスのリプレスのリプレスみたいなやつだからあまり良くないのかもしれないにせよ、このブルーラベルでの変化は、主観の入った改良というより「補正」と呼べる範囲内で、原典尊重主義者からしても何も悪くない。


検証サンプルがこの2タイトルしかないながら、ひとまずブルーラベルはリマスターCDと初期LPの中間」と位置付けることにした。(CD再発前のリプレスLPだから当たり前だけど)
音質向上版であると謳われてはいないが、旧規格品と比べると、再発当時一般的に好ましいとされたであろう方向にそこそこ変化していることが、オカルティックではない有意差をもって確認できた。
製造の工程上、マスタリングエンジニアの裁量という「人の判断」を通過するから、時代ごとに「まともな音」の一般通念が変われば、こういう差異ができるのも当然な気はする。

ブルーラベルは音の違い以外にも

  • 装丁等にナイスプライス系の廉価再発のような雑さがなく、盤の厚みもなかなかしっかりしていて、製品として高品質
  • 当たり前ながらプレス時期の新しさゆえ、コンディション良好である確率が高い(手元の2枚はノイズがとても少なく、ツヤツヤコート仕上げのジャケもスレておらずキレイ)

など、良い点はある。アナログはこのへんが悪い方にブレたときのガッカリが侮れないので、収集家には意外と大きい要素かと思う。
しっかりしているのはよいのだけど、ゲートフォールドの背の厚みがピンクマッドハッターの倍近くあり、ついでに品番も「CAS〼〼〼〼」じゃなく「CHC〼〼」だから、旧規格と入り混じると棚での見栄えが微妙になってしまう点については留意されたい。(むしろこれが買い替えの一番の動機だったかもしれない)

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個人的には、「オリジナルを『良く』した音源」はリマスターCDでいいだろうということにして、ピンク&ブルー二重持ちはせずにおこうと思う。
これが他のもっと好きなアルバムだったら、アナログメディアのポテンシャル + イシュー違いによる音質の差 × 個体の物理的コンディション のかけあわせで無限に広がる平面の中の、複数地点を押さえたっていいのではという気にもなるのだけど。(そして既にやっていたりする)

ちなみに、リプレスLPとリマスターCDの中間にいるはずの未リマスター初期CDはというと、「オリジナルマスターからアナログメディアのポテンシャルを取り除いたバージョン」というまた別の存在なので、同一線上では考えない。「瞬間的に100点を叩き出すノイジーなLPか、安定してクリーンな90点のCDか」という議論もまた悩ましい。

中身の音楽を生み出した人達とはまた別に、いろんな人の「これがよかろう」「こうなってしまった」が重なって最終的な製品となるフィジカル音源たるもの、つくづく容れ物自体が文化的な存在だよなーと思う。音だけになるとちょっと寂しい。