2022/01/16

リプレスvs.リプロ、IFPIレーベルコード(MARK FREE - Long Way From Love)

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KING COBRA、SIGNALなどのバンドを経て、90年代から長年UNRULY CHILDで活動するマーク・フリー(男性から女性へ性転換したため現在はマーシーと名乗る)が93年にリリースしたソロアルバム「LONG WAY FROME LOVE」は、AOR/メロディックロック界で有名な希少盤のひとつ。

きょう店頭で中古盤を見かけて、ウェブでの相場を下回る1,600円であったので、レア盤放出で儲けたPayPay残高を使って捕獲したはいいが、帰って開けてみると年代物のはずなのに未開封新品。
こまかいところを気にして見てみると、裏ジャケの細い文字がちょっとヨレていたり、表ジャケの写真もスキャンっぽいモアレが出ていたり、文字が載っている部分の黒背景がちょっと微妙だったりと、不安要素はばっちりある。しかし未開封品ゆえ店側もちゃんと確認ができず、オリジナルともリプロとも書けずにちょっと安く売り出していたのだろうと察しがつく。
プレミア価格でリプロ品をつかんでしまったのでは大損なので、あれこれ調べ回った件について、今日は書きます。

差異の検証

これが不安要素の数々。モアレ、細字の弱さ、不自然な文字背景。

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退色も黄ばみも一切ないミントコンディションで、紙の印刷のニオイからしても、造られてからさほど年数が経っていない模様。
とりあえずマトリックスナンバーをチェックしてみるとする。

今回入手したのはイギリスのNOW AND THEN RECORDS盤。Discogsで該当するバージョンは計3通りある。オリジナルと、オリジナルを模したロシア製リプロ(=不正コピー品)、年代不明のリプレス(=いちおう正規品?)とされているもの。手元の品は、マトリックスナンバーから、3つめの「年代不明のリプレス」と合致した。

まずオリジナルとリプロは、すべての要素が完全に同じである模様。最近のリプロ品はマトリックスナンバーまでコピーするらしい。そうなると、画像の解像度や、「年代の割にこのキレイさはあり得ない」みたいな人間的な基準で判断するしかない。なんと恐ろしい。

年代不明のリプレス品は、裏ジャケやブックレットなどはすべてオリジナルと同じながら、マトリックスナンバーだけが違う。
しかし随所に漂うスキャンくささ。これがリプロではない正規リプレスだと何故言えるのか、根拠がわからない。Discogsには生産国が「UK & Europe」と書いてあるけどそれもどこから分かるのか。

IFPIレーベルコード

Discogsに上がっている現物写真には、そのバージョンを特徴づける要素がわかりやすく載せてあることがある。
年代不明のリプレスのページには、現物のどこを大きく映したのかわからない超拡大画像みたいな写真があり、そこに「IFPI LZ88」と書いてある。
探してみると、盤本体のマトリックスナンバーが書かれている内周部分に、小さすぎて読めない刻印らしきものが確かにある。写真に撮って拡大してみると...

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これだ。ちっさ!!!
しかしこの文字列は何なのか。検索してみると、グーグル先生がコレやろと言ってくる。

『IFPI(International Federation of Phonogram and Videogram Producers)とは、国際的なレコード業界の業界団体である。 CDなどの裏面に「IFPI L232」などの事業者番号が割り当てられており、その番号でプレスメーカーが判別できるようになっています。』
出典はこちらのブログ。有益な情報ありがとうございます。ということは少なくとも製造国はわかりそうである。

もひとつ検索すると、ドイツのMusik-Sammler.deなるサイトが教えてくれた。
いわく、イギリス2社・ポーランド1社・ドイツ1社・オーストリア1社のどれかとの事。幅があるじゃないか。
とにかくそれがDiscogsの「UK & Europe」の根拠っぽい。UKならばオリジナルリリース元NOW AND THENの本拠地だし、ジャケにはドイツのディストリビューター・IRS用の品番が記されているので、ドイツでも正規プレスの可能性が高まる。しかしポーランドならロシアと同じ旧東側。(※ロシアはリプロCDのメッカ)

真相は不明だが...

結局、決定的な情報は掴めていないものの、さらに検索しまくったところ、おおかたこういうことなのかもしれない...というストーリーは一応できあがった。

BEYOND BATTLE RECORDSという日本のショップがこのアルバムのNOW AND THEN盤を「再発盤」として仕入れている形跡を発見した。確実な鑑定眼と仕入れルートを持った超・専門店であることは一見してわかる。更に我らがDISK HEAVENも2011年に再入荷している。専門店の威信にかかわるところなので、リプロならリプロと書くだろう。
先のBEYOND BATTLE RECORDSによると、製造元として「NL Distribution」とある。メロハー系に強いドイツのディストリビューターらしい。

NOW AND THENは2005年以降リリースがなく、既に停止しているようだけど、DIscogsいわく、末期にはイタリアのFRONTIERS RECORDSとライセンス契約を結んでいたとのこと。実際、ボーナス収録の2枚組は98年にFRONTIERSからリリースされている。
その後、熱心なマニアの声にお応えしてリプレスをするにあたり、2枚組を作るのはコスト的にしんどく、敢えて新装バージョンを出し直すのもしんどいから、旧仕様をFRONTIERSがそのままリプレスしたのかもしれないし、NOW AND THEN消滅を受けてNL Distributionが何らかの権利を獲得していて、やっぱり旧仕様をそのままリプレスしたのかもしれない。(※註:あくまでどっちも推測)

「レーベルもバンドもとうに存在しない作品の奇跡的オフィシャル再発」という話自体は聞かなくもないような、気がするので、とりあえずそういう類のことだろうと言い聞かせておきたい。相場より下とはいえ高かったしな。

とにかくこの「LONG WAY FROM LOVE」というアルバム、泣き多め・シンセ強めの極上メロハーで、フックひとつあたりの大きさが通常の2倍ある感じの超濃厚な楽曲が印象深い。マーク・ボールズとマイケル・スウィートの中間のような、クリアで線の太いハイトーンでまっすぐ伸びるマーク・フリーの歌唱がまた絶品。
日本のZERO CORPORATION、ドイツのLONG ISLANDやDREAM CIRCLEと並んで良心的すぎたメロディックメタルの宝庫・ NOW AND THENらしい内容の名盤なので、ご興味を持った輸入盤派のみなさんはぜひ「これぞ正規オリジナル」という品を手に入れていただきたい。

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