2022/01/07

しつこくメタルとグランジの境目を気にする・北欧編

DIZZY MIZZ LIZZYのことではない(DIZZY MIZZ LIZZYもいい)。2022年にもなってまだこんなことばかりやっているとは、10年前の自分は想像しただろうか。していた気がする。

何年かぶりに訪れたDISK HEAVENで、昔持っていたのに売ってしまったSKINTRADEの1st(93年)輸入盤を買い直した。JAGGED EDGEなる正統派メロディックロック路線のバンドから派生し、90年代対応型のスタイルで健闘したスウェーデンのバンド。買ったあとでオークションで確認したら100円+送料で売りに出ていたけど、高校・大学時代はどこに行く時よりもワクワクして出向いたあのヘヴンで落とす金ならば後悔はない。と言い聞かせることにした。
帰ってちゃんと聴いて、本当になぜ一度手放したのか、当時の裁判官(自分)をひっぱたきたくなる好内容であった。安直に流行りを意識している部分も多々あれど、その後ソロキャリアも築く名シンガー、マッティ・アルフォンゼッティの熱っぽく太くしかし爽やかでもあるヴォーカリゼーションが素晴らしいでないの。サウンドプロダクションも素晴らしい。
2nd「ROACHPOWDER」は売らずに所持していて、最近聴き直したときに、SOUNDGARDENをヤンチャにしたような極上の内容であることを再認識していた。そのうえ1stもこれときたらSKINTRADEはもう「いいアルバム出してたマイナーバンド」から
「好きなバンド」に昇格である。

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そうかーと思っていろいろ調べたら、ここ10年以内に再結成してアルバムも複数リリースしている。しかもそっちも出来がよい。SKINTRADE最高じゃないか。即、ユニオン通販部で近年作とベスト盤(シングル収録曲および再結成アルバム以前の新録曲入り)の店頭受け取りを申し込んでしまった。

この感じで何年か前にドハマりして、入手困難なデビューEPやプロモシングルまでコンプリートしてしまったのが、ノルウェーで90年代中頃に活動していたJACK IN THE BOXときどき何の説明もなくグランジのオブスキュアどころの音源URLをツイートするTwitterアカウントの人がツイートするまで全く知らなかった。KING'S X好きを強く感じさせつつ、相当なひねくれ指向と楽典的高度さをパーフェクトに曲の聴きごたえ成分へと昇華する恐るべき実力派。

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こっちも北欧じゃないか。何かあるのか北欧。

メタルバンドがいよいよそれまでどおりの音楽性では食えなくなってきた92~3年頃およびそれ以降、流行りのグランジへのなびきようも十人十色で(Metal of the 90sの記事で最近くどくど書いている気がする話)、そんな中「めちゃくちゃモダンになって変貌ぶりに賛否が分かれるも、クオリティの素晴らしさゆえに高評価を得た」とのことで当時話題になったといえばスウェーデンのMASQUERADE。またスカンジナビア。完全無欠のTNTクローンとして登場した1stも最高ながら、ダークでヘヴィだが同量のメロディック要素で楽曲ひとつひとつを豊かに聴かせた2nd「SURFACE OF PAIN」はほぼリアルタイムで買い、確かに...と唸らされた。

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グランジが持ついくつかの特徴的な要素のうち、リズム面でのトリックを交えながらズクズクと迫るリフ刻みのパワーやグルーヴ、陰鬱なムードなどは拝借しながら、典型であるフラットファイブを効かせたややアーシーな音選びは避け気味にして、代わりに中近東スケールに置き換えたり、なんならメジャーキーに持ち込んだりした結果、生々しいヘヴィネスもメロディックなきもちよさも双方同時に極大化させるというのが、MASQUERADEもJACK IN THE BOXも共通している点(SKINTRADEはそのへんがちょっとノーマルではある)。

もうひとつ、病的な感じではないハードロックなシンガーが、そうしたグランジ風味の曲をハイトーンでバリバリと歌い上げてくれるのも重要なポイント。WINGERの「PULL」やHAREM SCAREMの「VOICE OF REASON」などにもそういう良さがあるけども、北欧グランジメタルの充実ぶりはちょっと特異スポット感がある。SKINTRADEのマッティ・アルフォンゼッティの素晴らしさは前述のとおりで、パワーと透明感をあわせもつMASQUERADEのトニー・ヨハンソン、色気のあるグリッティーな歌い回しがとにかくかっこよいJACK IN THE BOXのエリック・シことラーズ・エイキンド、どちらも最高。

他に誰かいないでしょうか?います。

アミューズメントパーク級の変態激テクギターがトレードマークになっているマティアス・エクルンド率いるFREAK KITCHENフロムスウェーデン。彼らも「ヘヴィネスとポップさが同時にどこまで行けるか」を頑張っているバンドだと思う。ヴォーカルもまさにパワー歌い上げ系だし。テク要素が凄すぎてそっちのインパクトにもっていかれ気味なところもあるけど、曲がよくて歌がよいところが私は好きです。

ジェフ・スコット・ソート&マルセル・ヤコブのTALISMAN(マルセルはスウェーデン人)も、「HUMANUMAL」で90年代型グルーヴ、特にファンク寄りの躍動感を意識しながら、メロディックメタルであることを全然諦めていなかった。そこが大きく乖離せずにひとつひとつの曲の中で折衷していて、ここにしかない試みとして結実しているように思う。

元(当時)EUROPEのジョン・ノーラム(もちろんスウェーデン)の一時期のソロ作は、かなりストレートながらヘヴィさでは近いものがある。95年「ANOTHER DESTINATION」や翌年の「WORLDS AWAY」など。なんならこの時期くらいソリッドでアグレッシヴなほうが、リードギターも映えている気がするし。BLUE MURDERの2ndでちょっとだけ歌っていたケリー・キーリングの熱唱が堪能できてよい。

グランジっぽくはないけど謎にソリッド&エキセントリックになった元・正統派哀愁メロディックメタラーGLORYのラスト作「CRISIS VS. CRISIS」のことも、この流れでついでに思い出しておきたい。やっぱりスウェーデン。これは本当に変わったアルバム。イングヴェイとの仕事では評判があまりよくなかったヨラン・エドマンが、やたらに役者っぽいカラフルな歌唱で大活躍する点でも聴きごたえがある。アンビエンスを徹底排除したヤン・グラウィックのギターのトーンが凄くヴァイでまたよい。

探せばまだまだいるんだろうなあ。点として見えていたものがうっすらカタマリとして感じられてくると俄然おもしろい。10年後も引き続き探しているかもしれない。