2021/02/08

FENCE OF DEFENCE

年末の休日、TMネットワークのラジオ特番がウェブで聴けるというので聴いてみた。

70年代後半生まれくらいの世代だと、アニメ「シティーハンター」シリーズの主題歌がポップスへのめざめだったという人はけっこう多いと思う。自分も例のやつが聴きたくて父親に「TMネットワーク買ってきて、あれが入ってるやつ」くらいのお願いをしたところ、お互いの情報不足により2nd「CHILDHOOD'S END」のカセットテープがやって来たところからリスナー人生が始まったクチだ。("Get Wild"が入った「GIFT FOR FANKS」は後日、CDでレンタルして従姉にカセットに落としてもらった)

バンド解散後のキャリアの華やかさには正直大きな差のあった3人だが、事あるごとに周年記念のイベントやリリースをマメにやっていることもあってか、番組では楽屋が別々の大御所芸人コンビみたいなヨソヨソしさは微塵もない。往年の冠番組「カモン・ファンクス」や「木根尚登のオールナイトニッポン」の頃と変わらぬ「テッちゃん・木根くん・ウツ」のテンションが懐かしい。話題はほぼすべて昔話で、知らなかったエピソードがどんどん出てきておもしろい。
この番組だけでは飽き足らず、ウェブで聴ける/観られるニコニコ動画系のアーカイブや、昔のラジオ出演のエアチェックなんかもいろいろ漁ってみた。
その中で、当時かかわりの深かった人々の名前がたびたび会話に登場したり、実際に出演したりする。作詞家の小室みつ子。弟子の浅倉大介。レーベルメイトの岡村靖幸、FENCE OF DEFENCE。

フェンス・オブ・ディフェンス!
ようやく本題。こうやって門から玄関が無駄に遠いライナーノーツは全部燃やしたいですね。

同じく「シティーハンター」で主題歌に採用されていた"セイラ~SARA~"はよく知っていて、バンドの名前もあとから知った。TMネットワークのサポートメンバーだったとかレーベルメイトだったとかいう業界トピックは小学生の自分が知る由もなかったが、TMメンバーの口からは親しげに「フェンスの誰々君」と呼ばれる関係のようだ。
四半世紀ごしに興味が沸くものの、"セイラ"以外を全く知らない。平日の昼休みに卓自炊(これについてはきっと後日詳しく書く)でできあがったトーフのあやしげな何かをいただきながらSpotifyで聴き始めて、おい!!となってしまった。

大仰なSEに導かれる1st冒頭曲から完全に洋楽志向。ASIA~後期THE POLICEをハードにしたような曲から、ハイパーフュージョンが溶け込んだダンサブルR&B風の曲まで、堂に入ったスケール感でオリジナルティも際立っている。リードギターはテクニック・フィール・トーンとも、海外の仕事人たちを聴いているのと変わらない。

80年代中頃当時の日本国内は、「欧米クオリティに後手から追いついて凌ぐ、または別ルートで匹敵する」という意識が何の分野でも今よりずっと強く存在していて、大衆音楽もたぶんそういうところがあった。やがてそうした一本線の価値観が弱まり、小さな区画ごとの欲求に対して与える生理的満足をどんどん高度なものへと突き詰めていくマーケティング主義にとって代わった結果、「現時点での回収見込みはさておき、気概先行で時代の先端を目指す」みたいなものがいきなり市場に実地投入されているところを今では、少なくともメジャーな娯楽界においては、あまり見ない気がする。
FENCE OF DEFENCE(以下FOD)は間違いなく先端志向なほうのグループだったと想像する。お茶の間には少々ハイブロウだったのかもしれないが、見せつけて驚かすというより、圧倒的な高みを提示することがそのまま「何それかっこいい」を呼び起こす確信や、受け手の感性への信頼があるゆえの挑戦だったのではないか。

バンドはトリオ編成で、メンバーは既にスタジオミュージシャンとしてのキャリアがあった人達だという。そのスペックにこの音楽性とあって、メタラーにはWINGERとイメージが重なる。しかし何しろこちらが先だ。キップ・ウインガーにも聴かせたい。
極力まだ多く踏まれていないコード進行を通ろうとする基本姿勢が徹底していて(そのへんもWINGERぽい)、例えば"セイラ"のサビ終わり、「新しい(IV [F])→ ストーリー(V [G])→ Just for you」で恰好の解決(I [C])チャンスになるところを、II [D]に進んでベースラインがDFGFDFGF...と8分で動く。続くAメロ頭でその動きが止まってIIのままガチッと安定軌道に乗るまでのこの揺れる吊り橋は、80年代日本の名橋百選に数えたい。

洋楽リスナー目線とは別の角度でもうひとつ。二枚目感漂わす熱っぽいボーカルと、時にハード・時にフュージョンマナーなギター、重心のどっしりした8ビートに鋭角的なシンセの効いたアレンジの男性ロックグループといえば誰?と道行く40代にマイクを向けたら、一定の割合で「ん~WANDS」と返ってくるかと思う。
主に90年代前半に流行したいわゆるビーイング系とFODは、そんな感じでやや共通する雰囲気があるが、2021年2月現在のWikiの最初にも書いてあるとおり、FODは実際に音楽事務所ビーイングに所属していたとのこと。(知る人には当たり前の情報を、今知ったテンションで書いてるだけです)
WANDSはギターのトーンなどに松本孝弘イズムも感じていた。FODも松本氏もTM NETWORKのサポート出身という点でつながる。なんならFOD北島氏が自身の後任にと推薦したとのことで、松本氏もまたビーイング所属。J-POP黎明期のミリオンセラー連発市場を賑わせたビーイング系の出発点を訪ねるとFOD~TMネットワーク周辺に行き着くと知って、猛烈におおぉ~となっている。邦楽シーンのサブジャンルを系譜でまとめるとしたらFODの名前は大きめに書いておかないといけない。

TM、PSY・S(数年前に突如偉大さに気付いてアルバムコンプリート済み)、FODと、「シティーハンター」は子供心に後生残る良い爪痕を残してくれた。
さんざん過去の功績を讃えているが、活動を休止していたのはわずか4年で、あとはずっと現役でい続けているということも書き添えておきたい。