2021/02/04

初期ANTHRAX所感

初回投稿にもあるとおり、サイト再開のきっかけにもなったわたしのオールタイムベスト・オブ・メタル、スラッシュ四天王の一角フロムNYことANTHRAXでまずはひとつ。

代表作3rd「AMONG THE LIVING」(87年)のデラックスエディションが2009年に出たのを皮切りに、ジョーイ・べラドナがシンガーを務める時代の残りのアルバムも、それぞれの30周年のタイミングでボーナス追加・リマスターの豪華版がリリースされ、2020年の「PERSISTENCE OF TIME」をもってひとしきり出揃った。(企画盤である「ATTACK OF THE KILLER B'S」も今年30年になるが、同じように出るのかどうかはあやしいところ)

87年のライブDVDがまるまる抱き合わせになった「AMONG~」以外は、非リマスター支持者なので見送っていたが、生涯屈指の好きなアルバム「PERSISTENCE~」のリハーサルテイクなどはさすがに気になり、importcds.comのセールにのせられてついでに全部まとめて買ってしまった。
ラベルが白いのは四半世紀前から持っている方。同じものが2枚ずつあるように見えるだろうか。否である。

3週間ほどでアメリカはイリノイから到着し、各作品長らくぶりに最初から通して聴いてみる。
コントロールされた攻撃性の強化と芸術性との折衷で発展していったスラッシュメタルムーヴメントにあって、ANTHRAXが磨いていったものは他とひと味どころでなく違ったよなあ~などと改めて思ったりする。
いち早くメロディックな要素やグルーヴの多様性に目をつけてオリジナリティを高めていった「STATE OF EUPHORIA」(88年)「PERSISTENCE OF TIME」(90年)と聴き、最後に「SPREADING THE DISEASE」(85年)に戻ったのだが、改めて聴くと初期特有の「戦略性なき詰め込み具合」がここまでのものだったかと、なんだか新鮮に感じてしまった。


デビューアルバムにはそれまでの好き・憧れが無造作に押し込まれるのが常。ただ前任者ニール・タービンをシンガーに据えた1st「FISTFUL OF METAL」は、当時発生したてだった初期メタルの外形をほぼほぼなぞって多少のエクストリームさを足した程度という印象でいる。
メタルマニア感が希薄でより幅広く歌えるジョーイ・べラドナを獲得したこの2nd「SPREADING~」でこそ、ここまでの助走で温めたものを余さず放出することができたのかもしれない。

冒頭曲"A.I.R."はメタル史上でもけっこう唐突な存在だと思っている。気持ちのいい疾走2ビートではないし、何の定番も踏まえていない、かつ後続も作っていないように聴こえるが、とにかく殴り込み感はある。ゆえにライブでこの曲が出てくると、世に打って出た記念碑的な佇まいにグッとくるものがある。
まっとうにメロディックな"Lone Justice"や"The Enemy"、"Armed And Dangerous"は、その後の音楽性とはほぼ断絶していてあまり顧みられないものの、たとえばMETAL CHURCHやそれこそARMORED SAINTのアルバムにポンと入っていたら、突出した名曲扱いでもおかしくない。音楽的ブレインであるチャーリーの作家的器用さはこの頃から発揮されていたということか。(ANTHRAXのリフメイカーはドラマーのチャーリー・ベナンテとの事、スコット・イアンは最高の刻み屋)
"Madhouse"がシングルカットに選ばれるのは、やはり日本とアメリカの感覚の違いだなと思う。
等々。

聴いているうち、発展途上なサウンドプロダクションの中でも、特に「ベースの音がなんかカポカポいってないか?」と気になる。
指弾きの丸いトーンで、隙あらば高音域を使ってちょっとしたフィルを挟み、よく聴くとパワーコードを頻用してもいる。

中学生の頃に古本屋で買って穴が開くほど読んだBURRN!増刊「METALLION Vol.3」(87年)で、ベースのフランク(・ベロ)は「ゲディ・リー(RUSH)は神」と言っていたではないか。2013年のカヴァーEP「ANTHEMS」は思いきりRUSHの曲で幕を開けているくらいだから発見でも何でもないが、特に初期のフランクはめちゃくちゃゲディ・リーである。RUSHを聴いたことがない中学時代にはまったく分からなかった。

御大ゲディ当人からして、音作りも含めていわゆる一般的な「アンサンブルの中のベースとしてのいいベース」の相場とはまた異質な、独特の立ち位置にいると思う。RUSHではそれが、緩く広くザーッと彩色するアレックス・ライフソンのギターとちょうど噛み合って、比類なきトリオ像を作り上げているのだが。
思えば同じように影響を受けているであろうジョン・ミュング(DREAM THEATER)も、1st「WHEN DREAM AND DAY UNITE」冒頭のイントロ一発目から猛烈にカポカポいわせていた。この感じはゲディ門下生が一度は通る道なのかも知れない。

もう一人、シンガーのジョーイは同じ号のMETALLIONで、尊敬するシンガーとしてスティーヴ・ペリー(JOURNEY)を挙げていた。
特にANTHRAX初期作でのやや線細めな高音は、普通にそのまんまスティーヴの面影が垣間見えなくもない。が音楽性が大違いなこともあり、あくまで血肉になっているだけと思っていた。
しかしこの「SPREADING~」でジョーイは一瞬、スティーヴ愛を真正面から炸裂させていた。サビで長調になる異色のファストチューン"Stand Or Fall"のアウトロ付近、3:32~あたりのちょっとしたロングトーン、ここに"Keep On Runnin'"(「ESCAPE」収録)を限りなく匂わせるラインが確かにある。「ESCAPE」をじゅうぶん聴き込んだいま改めて聴いてようやく、顔認証の如くンッ?と引っ掛かった。
件のカヴァーEPには"Keep On Runnin'"まさにそのものが収録されていて、ジョーイずっとこの曲が好きなんだな、と窺い知るにつけ、変わらぬ想いに胸が熱くなるとかならないとか。(なる)


別の古いBURRN!誌のインタビューで、ジャーマンメタルの雄・HELLOWEENのシンガーのマイケル・キスクが「"Savage"はMONSTERS OF ROCKで共演したANTHRAXからの影響が大きい」と語っていた。
HELLOWEENの"Savage"は、88年のアルバム「KEEPER OF THE SEVEN KEYS PART II(守護神伝パート2)」からカットされたシングル"Dr. Stein"のカップリング曲。往年のファンには91年のベスト盤か、守護神伝1+2がカップリング2枚組で再発された際のボーナス収録で知られる。
ややスラッシーなリフと、当時のレパートリー中おそらく最速のBPMを誇り、ファンから隠れ名曲の呼び声も高い。

それでもANTHRAXの一般的なイメージとは随分差があるのだが、「SPREADING~」収録の"Aftershock"だけは、リズム然りリフ然り、直接的に似ている点がある。当時のマイケルに引っ掛かったのはこれなのか、などと想像すると、またロマンがある。
シャキシャキしたニューヨーカーの残り4人と違って一人西海岸からオーディションでやってきた(ゆえにズレを抱えたまま一度は解雇されてしまう)温和なジョーイと、のちに一切メタル色のない音楽活動に転向するくらいにオラオラなイメージが皆無なマイケルの二人がドニントンで意気投合したというのも、実にいい話だと思う。

逆向き(HELLOWEEN→ANTHRAX方向)のインスパイアは無かったのかなとは考えたこともなかったが、88年「STATE~」のフォローとしてリリースされたEP「PENIKUFESIN」(現在は「STATE~」に全曲含まれる)に収められた、当時のローディ達のことを面白おかしく歌った"Friggin' In The Riggin'"を久しぶりに聴いたら、あれーこれはちょっと例のhappy happy helloween~ぽいなあと思ったりして(註:「ロンドン橋落ちる」のメロディに合わせてバンド名が歌われるコミカルなくだりが、彼らのデビューEP冒頭にSEとして収められた)、実際の関連性は不明だが、おもしろい現象ではある。十中八九HELLOWEENじゃなくてオリジナルパンクからの影響ぽいけども。

ちなみに、記憶の真偽を確かめるために「BACK FOR MORE」(BURRN!誌のインタビュー部分のみ抜き出して単行本化したもの)を見てみたところ、別のインタビューを発見し、ANTHRAX・EXODUS・HELLOWEENの3組で廻ったMTV主催のツアーについてマイケル・キスクは「スラッシュメタルファンはとにかく暴れるだけで僕達の曲を聴こうとしない。ANTHRAXの連中は人間的には好きだが、ツアーとしては最悪な経験だった」という主旨の発言をしている。これはひたすらMTVが悪いと思う。バンドまで嫌いにならなくてよかった。

以上特に着地点なし。