2026/01/26

CHARN「BLASTS OFF」(1994 OUTTA SPACE RECORDS)

ビクターが90年代に制作していた格安コンピレーションシリーズ「ピュアメタルサンプラー」に収録されていた"Queen Of Hate"という曲、インダストリアルみのあるリフと大仰でわかりやすいサビが記憶に残る曲だったけどあればMORGANA LEFAYだったかROUGH SILKだったかKREYSONだったか...と、ある時思い出して、確認したらこのCHARNだった。おそらく日本においては、同じきっかけで知っているという人がほとんどであろうドイツのグループの唯一作。

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某ユニオンで輸入盤オリジナルがえらく高値で出ており、Discogsでもそんなに高騰してないのに需要あるんかい...と思って見ていたら案の定、アウトレットセールのたびに30%、50%、最近ついに80%に値下げになったため、ピュアメタルサンプラーを3か4までは買っていたよしみでウチにお越しいただいた。

現物を手に取って驚いたことがあったのだけどそれはまた後で。
CHARNは活動実態のあったバンドではなく、ハリス・ジョンズなる人物のソロプロジェクトというか、このアルバム制作においてのみ使われた名前っぽい。
ブックレットを見ると、サンクスリストで「SODOM、KREATOR、HELLOWEEN、VOIVOD、SEPULTURA、TANKARD、その他すべてのハリスと協働したバンド」に謝辞を述べている。調べてみると、絡みのあったビッグネームを引っ張り出して大きく見せちゃっているわけではなく、それらのバンドのプロデューサーないしレコーディングエンジニアとしてガッツリ貢献してきたのがハリス・ジョンズその人だという。70年代末にドイツのパンク/ニューウェイブシーンでデビューし、MUSIC LAB BERLINというスタジオを所有しており、それでNOISE RECORDSの極初期からおかかえエンジニアとして活躍したらしい。

中身の音楽のほう、当人としては「スペースメタル」を自称していた模様。確かにアートワークもSFタッチで、ぱっと見はPESTILENCEの「SPHERES」ぽくもある。言うほどスペイシーかというと、それらしいシンセやSEがまぶされてはいるが、曲がとにかくストレートなので、あくまで表面的な感触の域であって意識をひん曲げられるようなトリップ感はない。

ボーカルはドイツっぽいしゃがれ系の普通声が基本だが、曲によってはデス声風にもなる。人間のドラマーがクレジットされているものの、半数くらいは明らかに打ち込みドラムで、ジャリジャリしたトーンで冷徹な感触のリフを刻むギターも相俟って「90年代をまたいだスラッシュ/パワーメタル畑の人が『未来的であろう』という曖昧な野望の行く先を、当時新鮮だったインダストリアルメタルに見出してしまったアルバム」だなあと感じる。
勇壮なのか悲壮なのか分からないがとにかく大仰なメロディック寄りの曲もあって、そこではCYNICよろしくボコーダーでショワーッと和音になったボーカルが聴ける。

おそらく設定されているであろうストーリーがたけなわになってゆくアルバム終盤、ようやくスペイシーなアプローチが楽曲そのものに入り込む場面が現れ、ヘンな音楽だなあという感じにも若干なる。だが総じていえば、今なお活動しているような名だたる重要バンドを手掛けたキャリアの持ち主の自前プロジェクトといえど、着想力もパフォーマンスも鮮やかなところは特にないと言わざるを得ない。「ピュアメタルサンプラー」はメタル聴きはじめの中学生が聞いたこともない名前のマイナーメタルがゴロゴロ入ったワクワクのかたまりだったから、個人的にはその記憶とともにあるこの質感だけで聴けるし愛せる。「あの頃お前を憧れの目で見てた俺らがいなかったら、誰が今、お前のこと気にかけるんだよ...」みたいな、因縁にも似た大変失礼な感情によって自室の棚を太らせているCDはほかにも結構ある。
ちなみにゲスト参加のミュージシャンは目立ったキャリアの見当たらない人が大半だが、1曲で「メランコリック・スラッシュ」を名乗ったことでやや知られるDEPRESSIVE AGEのメンバーがまるまる参加している模様。DEPRESSIVE AGEの初期作は80年代ゴス/ニューロマンティックを感じるなかなか変なメタルです。

それにしても、ドラムを打ち込みにしただけの貧乏スラッシュじゃんという作品も多かったインダストリアルブーム期の作品全般、それがセンセーショナルだった頃の空気を一切知らない若年リスナーの耳はどう聴くのだろうか。普通それを良しとはしないであろうラインをガンガン攻めてくるものではあるから、「ヤバすぎる」みたいに思えたりもするのだろうか。興味のある方はちょっとだけ試してみてほしい。

そしてこのアルバムのオリジナル本国盤は、今まで出くわしたことのない不思議仕様になっている。
日本企画が先で、海外では後から発売されたような作品は、グランジによってメタルが超下火だった90年代前半にはよくあって、輸入盤でもライセンスまわりの表記にPony Canyonの名前が入っていたり、背ラベルなどにZERO CORPORATIONやビクターのデザインがそのまま採用されていて輸入盤感に欠けるビジュアルになっているものが少なからず存在する。
このアルバムはそのどれとも違うパターンで、トラックリストを含む裏ジャケ全面が、どう見てもビクター日本盤のブックレットをめくったページ(ないし白い紙の別冊)にある和英併記のやつになってしまっている。ご丁寧にシルバーのインクで。

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店頭受取のレジで絶句し、その場でDiscogsを調べて確認してしまったのだけど、どうやらこれが本当に正規盤らしい。(その時の店員さんもびっくりしただろう、私の様子に)
後から勝手に入れられる日本語クレジットやレーベルマークによるデザイン破壊の問題で、大学生の頃以来ずっと頑なに輸入盤派人生を貫いている身としては非常に困る仕様である。これこそが手の入っていないオリジナルである以上、受け入れるよりほかない。日本盤ですら外装の裏面は英語表記なのに何故こんなことが。
Discogsによると輸入盤にはもうひとつリプレスバージョンがあって、そっちはちゃんと裏ジャケが英語表記になっているし、ついでにブックレットのページ数も豪華になっている模様。ますますわからない。
こうなったいきさつについて何か情報が流れていないか、GeminiやChatGPTに尋ねるも、海外でも全然話題になったことがないようで、噂話すら拾ってくれなかった。ハリス氏本人がやっているのかどうかは不明だがBandcampのアルバムページを発見し、そこでは「キャプテン和田(=和田誠、ピュアメタルを提唱したメタル評論家)とJVCのお陰でこのアルバムができた」と書かれているから、日本盤も入手してキャプテンのライナーを是非読みたいところなのだが、どうせならアルバム本体がもっといい内容だったらなあ...と切に思う。