2026/01/08

飯島真理ディグ記 (2)LA移住以降

前回の続き。

渡米・夫婦AOR期

UKレコーディングを敢行した「KIMONO STEREO」、国内にNYのミュージシャンを呼び寄せて制作した「コケティッシュ・ブルー」を経て、6th「MISS LEMON」('88)以降、活動拠点はアメリカ・LAに移される。
デモテープの中から、セッションキーボーディストのジェイムズ・ステューダー(以後ジム)のバンドを気に入って、そのまま運命レベルで意気投合。タイミングの詳しい前後は未確認だが、両人は結婚して公私ともにパートナーとなる。ここからMOONを離脱する96年までの間、ジムの得意とする完全北米大陸型のAOR~スムースジャズテイストが非常に濃厚な時期となる。

客演ミュージシャンはすべて現地手配で、日本のバブル崩壊後もなお相当豪華なメンツに恵まれる。
晩年のジェフ・ポーカロ、総計何千曲で仕事してるのかわからないマイケル・ランドーほか、リーランド・スカラー(ベース / ジェイムズ・テイラーのバンドや一時期のフィル・コリンズのバックに参加)、マイケル・トンプソン(ギター / 大物どころの作品で無数の客演あり、スチュアート・コープランドがやっていた幻のグループANIMAL LOGICのメインギタリストでもあった)、80年代フュージョン/AOR界隈で参加作多数のカルロス・ヴェガ(ドラム)やマイケル・パウロ(サックス)、珍しいところでSTRYPERのオズ・フォックスがなぜかバッキングコーラスの常連としてずっと参加していたりする。

ボーカルはぐっと深めのトーンとアイドル感がシームレスに一体化し、円熟の余裕を感じさせる。アレンジと演奏は洗練極まる手練れのメロディックロック。歌詞は初期より示唆性・物語性が減って、ほぼ自分自身の境遇や経験だけ歌っているのではないかというダイレクト具合になるのだが、それはさておき。
この声と音の取り揃えは個人的に「日本語のWILSON PHILLIPS」なんである。あの素晴らしいWILSON PHILLIPSのセルフタイトル1stは、2nd以降だとかなり感触が変わってしまうという意味で、なにせあの1枚きりでしか味わえない。そこに匹敵するソフトフィメールメロハーって意外と出会わないなあと思っていたのだけど、この期間のステューダー夫妻は超上質なそれ(というかこちらが先)をアルバム8枚に渡って放ち続けてくれている。
曲単位で若干の変化球が入る以外、作品ごとのカラーの変化はほぼ起きないが、ずっと高止まりのクオリティでいるので「代表してこの1~2枚でいっか」ができなくて大変。90年代フェチ的には、カバーアートの文字にドロップシャドウが使われる「LOVE SEASON」('94)で音の質感的にもひとつ線をまたぐ感があり(お分かりいただけるだろうかこの現象)、筆者はひとまず「DIFFERENT WORLDS」('93)までをフィジカルで押さえてこれを書いている。
もう1曲リンクをば。USクオリティの洗練が頼もしい。

そしてこの後、94~95年あたりを境に、発声にギュッと狭く締めるような成分が徐々に混じってくるのだけど、この件はまた最後に。

※後日加筆分(重要)

まあいいかとスルーしていた91年リリースのライブアルバムが、サブスクで聴いてみると極上の乗り心地すぎて素晴らしいのでそちらもCDで回収した。これは数があまり出回っていなくてややプレミア傾向なようで、1000円ならGoライン。
これぞここ数年追い求めていたメロハーとスムースジャズの究極の最高峰の合流点かもしれない...などと思いながら裏ジャケを見てみたところ、自室で一人で本当に声が出てしまった。

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ギターにアレン・ハインズ。えらいことだ。友人の勧めで聴いていたく感服して以来師匠の一人としている、現代最高峰のフュージョンギタリストの一人。昔から大物AORどころの来日公演のバックで来ていたという話は知っていたが、こんなところに顔を出していたとは。
ソロはほぼサックスのマイケル・パウロが担当しているので基本的にはバッキングが大半という贅沢づかい状態で、一応何曲かはギターソロもある。深くコーラスをかけ、フレージングも現在ほどの仙人ぶりではなく普通にピック弾きだが、不思議なウニョウニョ感は垣間見られる。後半数曲で遠藤太郎というギタリストがゲスト参加していて、11曲目"ロンリー・ガール"では珍しいことにギターバトルまで披露している。初期音源をBIRDS OF A FEATHERまで掘り込む熱心なファンならこれは無視できまい。
こうなると同作のDVD版も見てみたいところだが、そちらは残念ながら既に5桁台の高難易度状態。オンデマンドでいいから再発求むよワーナーさん。
加筆ここまで。

ジェイムズ・ステューダーも掘り下げる

渡米後の活動を支え、また音楽的方向性を決定づけたこの人についても、当然リサーチせねばならない。
Discogsによると、70年代後半から客演中心のセッションミュージシャン人生が始まっている。アル・ジャーロウ、ジム・メッシーナなどのよく見かける名前に交じって、中山美穂ほか日本のアーティストとの仕事もあった模様。
その中で見逃せなかった経歴が二つ。

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トム・ロテラ!既に持っていた。以前ご紹介したDMPレーベルから数枚リリースしていて、その後もキャリアが続いているフュージョンギタリスト。
その作品に鍵盤で参加している。

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もうひとつこちら、セッションミュージシャンによるプロジェクトTHE LA COWBOYSの唯一作「ENDLESS SUMMER」。今回の掘り下げで初めて存在を知った作品で、これが目の覚めるような素晴らしいAORアルバム。
飯島真理作品でも多数共演しているマイケル・トンプソンがメインパーソネルの中にいるほか、ゲストにはバジー・フェイトン(ex.THE RASCALS, BUTTERFIELD BLUES BAND, FULL MOON, LARSEN-FEITEN BAND他セッション多数)師匠の名前も。一時期すっかり傾倒して関連作品を集めに集めた御大とこんなところで出会うとは。

作品自体は相当変わった企画アルバムで、邦楽曲のカバー(英語)と自前曲が半々で入っているというもの。アレンジと演奏の玄人度合いが本当にパーフェクト過ぎて、ランディ・グッドラムあたりと同質もしくは凌ぐほどの、ピュアで清い系のライトなメロハーAORの理想形を体現している。
とりあげている邦楽曲はアン・ルイスやEPOなどの、若干マイナーどころな楽曲が多い。2曲目に収録されているカルロストシキ&オメガトライブの"君は1000%"(=タイトルトラック"Endless Summer")が突出して有名だが、ややテンポを落としてアダルトみが大幅に加えられたこのバージョンがとにかく秀逸。さらに自前曲もまったくもって負けず劣らず充実している。ジムによるボーカルは高音まで安心して聴ける歌唱を披露しており、シンガーとしての実力もすばらしい。
日本盤が唯一のオリジナル、その後AOR HEAVENともう一社がごく少数のみリイシューしているようで、数少ないマニアから秘宝として大切にされている節が伺える。この大名盤に出会えたのは今回の探求の大きな収穫だった。

ありすぎるベスト盤とリメイクバージョン

話を再び主役のほうに。旧規格ブームをかいくぐりながらスタジオアルバムをきれいに揃えても、それで終わりではない。アルバム非収録で"愛・おぼえていますか" "1グラムの幸福"などのヒットを放っている実績から、シングルを集めたベスト盤の類が何枚も何枚も発売されており、それだけならまだしも、ベスト盤限定の再録バージョンが数多く存在している。
さらにシングルカット曲の中には、シングルでの初出バージョンとそれに続くアルバムバージョンが既に別物で、それを更にベスト盤でリメイクし、結果的に3つのバージョンが存在する曲すら複数ある。再録バージョンの多くは渡米後のメロハーAOR黄金期に録られているから当然チェック対象。こうなるとディガーの腕が鳴ってしょうがない。

こういうことをやるアーティストというと、真っ先に思い出すのはゲイリー・ムーア。彼こそ、セッションドラマーにフィルインの一つまで書き譜で指定する生粋のコントロールフリークといわれる。
まりン氏も、自身が曲の原案に込めたイメージを忠実に体現することに強いこだわりを示している。長期にわたったジェイムズ・ステューダーとのタッグは96年をもって終了する(ついでにプライベートでも離婚に至る)のだが、その期間に制作された楽曲についてさえ「彼によるクラシック・ロック的なアレンジはときにスムースすぎて、自分のデモにあったキラキラが薄まる感があった」「彼の良しとするイメージに誘導されていくようになってしまった、ガスライティングだった」という意味合いの発言をしている。今の自分によるジャッジが一番のリアルという姿勢こそ、長期の活動を支える原動力になっているのかもしれない。

ともかくそういうことなので、「一通りおさえたい」を実行することになかなか難儀する。ベスト、ベスト・オブ・ベスト、スーパー・ベスト、シュペール、ゴールド、ゴールデンベスト...と似たような名前とジャケのリリースがとにかく無数にあり、違いを識別するだけでも一苦労。
リサーチの結果、リメイクバージョンが新規で作られているのは、93年の「THE CLASSICS」と95年EAST WEST JAPANから発表された「BEST OF THE BEST」の2枚らしい。ただしそれ以降リリースのベスト盤収録曲が全て新バージョンに置き換わっているわけではないことに注意。
アルバムからも後年のベストからも漏れているシングルバージョンのみの音源については、7インチの実物を回収するか、2019年リマスターのボーナストラックか、「CD FILE」という7インチ5枚分のA・B面をそのまま収めたコンピレーションなら「スプーンおばさん」のOP/EDまでカバーできる。
"セシールの雨傘" "天使の絵の具"の三段変化、アイドル歌謡が極上メロハーアンセムへと変貌する"1グラムの幸福"など、ぜひ頭を抱えながら探索していただきたい。

完全独立から現在まで

このあたりからはまだサブスクでのチェックのみ。97年以降はレーベルからも離れてインディのフィールドでの活動となるも、それまでより若干延びた程度のインターバルで、変わらず精力的にアルバムが作られている。2004年の「WONDERFUL PEOPLE」あたりまでは音楽性の面でも過去作の延長線上にある陽の雰囲気が感じ取れる。
その次作あたりから、打ち込み主体の制作スタイルも手伝ってか、ぐっと内省的で翳った雰囲気の作風になっていくと同時に、2009年作以降は歌いづらそうな発声がかなり顕著になってしまう。アメリカで受けたボイストレーニングが合わなかったという説を多く見かけるが、はっきりしたところは不明。「イギリスに戻って自分を取り戻したい」と歌う曲まで出てくるほどで(※イギリスは4th「KIMONO STEREO」の録音地)、私生活やらインディ操業の大変さやらも影響しているであろうことが察せられる。

それでも「作って歌うのが自分という存在」とばかりに、40年以上のキャリアを経てなお気力と行動が絶えないのは単純に凄い。
加えてここ数年は、NIGHT TEMPOが"セシールの雨傘"と"Love Sick"のリミックスをリリースするなど、シティポップ/和製バレアリック文脈で再評価の波が確実に来ている模様。かの2nd「BLANCHE」までライトメロウハンターの財宝扱いになっていたりするのは安直すぎる気がするが、ご本人は2019年リマスターのオビに添えられたコメントでこのアルバムを「吉田美奈子さんの持つ独特な影の色合いに染められている」「かなりavant-garde」と評していて、そちらを全面支持したい。
そして軟式メロハー派のみなさんにはLA移住初期を再度推しつつ、NELSONばりに澄みわたるこの曲を捧げて〆としたい。