未解決:「フィンランドのメタルに中近東風トランス」の謎
メロディックデスメタル黎明期の90年代中頃、「このデス声をクリーン声に乗せ換えたらほぼIRON MAIDEN」みたいなところで地下メタラーがザワついている裏で、低速の楽曲に土着感の濃い北欧フォーク/クラシックロックの色を織り込んだスタイルで異彩を放っていたのがフィンランドのAMORPHIS。
出世作「ELEGY」への布石となった94年の「TALES FROM THE THOUSAND LAKES」では、ボーカルパートはほぼデス声がメインだが(ため息で巨岩を壊すような優しいデス声)、印象的な冒頭曲のサビほかアルバムの端々で並走しに入ってくる、ツーンとした鼻腔感強めのクリーンボーカルもやたらと耳に残る。

その声を担当していたのがヴィレ・トゥオミという名前の人で、同時期にKYYRIAというバンドを率いていたということをこのほど知り、喜んでデビュー作を入手してみた。KINGSTON WALLと同じZEN GARDENリリース。90年代マイナーバンド好きにとっては、いいもの入ってそうな大変そそるアートワーク。

KYYRIAは2nd以降、アトモスフェリックゴシック方面に舵を切り、その後シンガーのトゥオミ氏は同郷のSUBURBAN TRIBEへ移ってニューメタルみたいな方へ行ってしまうようだが、この1stはプログレッシヴな闇鍋具合が初期AMORPHISに相通じていてかなり面白い。サウンドプロダクションがしっかりしていて歌もヌケがあるので、アルバム全体の印象では、弱デスメタル化が進んだ「ELEGY」でのトーンにかなり近いかもしれない。わかりやすい泣き云々は無くて相当オルタナティブながら、これは初期AMORPHISが好きなら是非とも聴いておきたい良作だろう。
ところでAMORPHISの「TALES~」や次作「ELEGY」では、何曲かで部分的に差し込まれてくる中近東風スケールが耳に残る。それがオールドサイケロック風の質感と合わさって、イングヴェイ以降に定着したハーモニックマイナー由来のやつとは聴こえ方がやや異なっている。KYYRIAの1stにも若干似た表現が見受けられる。
さらにAMORPHISは、そこにディスコまがいのトランス感強調気味なアレンジがセットでついてくることが度々ある("Magic And Mayhem"、"Cares")。
同じフィンランドのカルトな初期デスメタルバンド・PHLEGETHONのアルバム「FRESCO LUNGS」(制作時期は91~92年)のCDにも、同じく中近東スケール+4つ踏みでイケイケにやっている風変わりな曲"Without Tea Waters"が収録されている(91年発売のアナログには未収録)。

またフィンランドといえば英雄KINGSTON WALLがいる。当時ゼロ・コーポレーションのリリースをチェックしていた向きには懐かしい名前かと思う。
演奏はアグレッシブだがメタリックさはかなり薄く、ジミヘンよろしくギターが荒ぶるトリオアンサンブルでもって古めかしいサイケロックを聴かせるのだが、後期になるにつれて特に、ディレイの効いたループやシンセ、口琴などまで駆使して、トランシーな中近東テイストをかなり前面に押すようになる。アートワークも一貫してその世界観。

AMORPHISも彼らのカヴァー音源を残しているくらいで、母国での存在感は相当大きいものだったらしい。
しかしKINGSTON WALLだけの影響によってこの「中近東風トランス」がフィンランドのメタルバンドに根付いたのか、それ以前からのもっと根深い何かがあるのか、この現象については以前から謎に思っていた。
ひとつの具体的な問いでは答えを得にくい、空気や通念みたいなものに関する疑問ならアイツに頼ってしまおうということで、ChatGPTに尋ねてみた。以下はその問答。
――― フィンランドのヘヴィメタル/ハードロックバンドであるKINGSTON WALL、AMORPHIS、KYYRIA、PHLEGETHONなどの作品には、中近東風の音階とトランシーなリズムを組み合わせたサイケデリックな表現が散見されます。近隣の他の国では見られない特徴です。これはどういった背景によるものと考えられるでしょうか。
KINGSTON WALL以前にもそうした中近東風音階+トランシーなリズムで人気を博したグループがフィンランドにいて、その影響の系譜があるのでしょうか。または人類史的にフィンランドは中東文化と何か特別な関わりがあるのでしょうか。
ChatGPT: 非常に鋭くて興味深い視点ですね。フィンランドの一部のヘヴィメタル/ハードロック・アーティストに見られる「中近東風の音階」と「トランシーなリズム」の組み合わせは、確かに他の北欧諸国とは一線を画しています。これについては、いくつかの文化的・歴史的・音楽的背景が関係していると考えられます。
フィンランドのロック/メタルにおけるサイケ・トランス的要素の由来
1. KINGSTON WALLの特異な出発点
KINGSTON WALL(1990年代初頭活動)は、プログレッシブロックやサイケデリックロック、東洋思想への関心を積極的に取り込んだバンドで、インド哲学や中東・アジアの音階、リズムに強い影響を受けていました。彼らのリーダー、ペトリ・ウォリは精神世界に深く傾倒しており、瞑想やスピリチュアルな旅を音楽に投影していたのが特徴です。
このスタイルは当時のフィンランドでは異端的であったにもかかわらず、後進のバンドに「精神的自由」や「音楽的越境」の可能性を示しました。つまり、KINGSTON WALL自体がフィンランドにおける「トランス+オリエンタル音階」のパイオニア的存在といえます。
2. トランス音楽文化とフィンランドの感性
フィンランドは1990年代にサイケデリック・トランス(特にGoa Trance)やアンビエント、ダークサイケなどの電子音楽ムーブメントとも親和性を見せ始めました。自然崇拝や内面的な旅への興味が強いフィンランド人の精神性と、トランシーなリズムやオリエンタルな旋律が調和したともいえます。
これがロックやメタルの中にも徐々に浸透し、AMORPHISの「Elegy」(1996)のような作品に結実します。彼らはフィンランド民謡とオリエンタルな要素を融合させ、世界観の広さを打ち出しました。
なぜ「中近東風音階」なのか?
1. 民俗音楽と音階の親和性
フィンランドの民族音楽(カレリア地方やラップランドなど)には、ドリアンやフリジアンのような東方的な旋法に近い音階感覚があります。そのため、東方の音階を導入しても不自然にならず、むしろ有機的に融合しやすい土壌があったのではないかと考えられます。
2. 音楽的エスケープとしての中東音階
北国で長い冬と孤独に包まれる生活の中で、異国への憧れ(エキゾチズム)が芸術表現に投影されることはよくあります。中東音階は西洋クラシックやブルース由来の音階と異なり、夢幻的・陶酔的な雰囲気を生み出せるため、「精神の旅」や「音による脱出」を志向するアーティストにとって魅力的だったのでしょう。
歴史的・人類史的な接点はあるか?
フィンランドが中東文化と特別な関係を持っていたという明確な歴史的証拠は乏しいです。交易や移民の歴史を辿っても、スウェーデンやロシアの影響が強く、イスラム圏や中東との直接的な交流は限定的でした。
ただし、近代以降、オリエンタリズム(東方趣味)はフィンランドのアーティストや思想家に一定の影響を与えており、とりわけ文学や現代音楽の分野では、インド哲学やイスラム神秘主義などを参照する動きがありました。これがロック/メタルに波及した可能性もあります。
まとめ:KINGSTON WALL以降の系譜
- KINGSTON WALLが東方音階+トランスリズムをフィンランドに持ち込んだ草分け的存在。
- その影響はAMORPHIS、KYYRIA、PHLEGETHONなどに確実に見られる。
- 精神性・エスケープ志向・自然主義というフィンランド文化の特質が、中東的要素と共鳴しやすかった。
- 歴史的な接点は薄いが、芸術的・哲学的な参照としての中東文化は存在。
――― ラップ人は古代にアジア方面から大移動した経緯があるはずです。その際に、その後中近東でも広まる音楽その他の文化のルーツがフィンランドにも持ち込まれたのではないかということについて、学術的に考証されてはいないのでしょうか。
ChatGPT: 非常に深い考察ですね。そして、ご指摘の通り、フィンランドの先住民族であるサーミ人(ラップ人)が持つ文化的起源や移動の歴史と、中東~中央アジア的な音楽的要素との関係については、確かに興味深い仮説となります。
このテーマについて、現時点での学術的研究の蓄積や仮説を元に、整理してお答えします。
サーミ人の起源とアジア的要素
サーミ人(ラップ人)はどこから来たのか?
サーミ人は現在、スカンディナヴィア北部(フィンランド北部、ノルウェー、スウェーデン、ロシア北西部)に居住する先住民族で、インド・ヨーロッパ語族ではない独自のウラル語族に属する言語(サーミ語)を話します。
ウラル語族は、フィン・ウゴル語派を含み、フィンランド語、エストニア語、ハンガリー語と同系統です。この言語グループは、中央アジアやシベリア西部のステップ地帯に起源を持つと考えられています。
よって、フィンランド人およびサーミ人には中央アジア方面からの古代移動の痕跡が確かにあります。
遺伝学的証拠
遺伝子解析により、サーミ人の一部には東ユーラシア由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)が見られ、これはアジア的起源を裏付けます。特に、ハプログループZ(東アジア・北アジアに分布)がサーミ人の一部に存在します。
音楽的・文化的要素の伝播は?
中央アジア的/中近東的な音楽特徴とは何か?
- モーダル音階(特にフリジアン、ハーモニック・マイナー、ドリアンなど)
- メロディーにおける微分音の使用
- 旋律が語るように歌われる詠唱的スタイル
- 持続音(ドローン)を多用した構造
サーミの伝統音楽との共通点
サーミ人の伝統歌唱「ヨイク(Joik)」は以下のような特徴を持ちます。
- 非西洋的な旋法を多用し、ドローン的な基音に旋律を乗せる。
- 意識のトランス状態やシャーマニズムと深く関わる。
- 即興性が高く、リズムより旋律と情緒に重きを置く。
これらの特徴は、中近東~中央アジアのシャーマニズム音楽、スーフィー音楽、遊牧民音楽に共通する要素です。
つまり、ヨイクは、アジア的音楽文化の原型の一部と類似性を持ち、それがサーミ人を通じて北欧に残った「音楽的アーキタイプ」の可能性があるといえます。
学術的にはどう扱われているか?
音楽民族学の見解
完全に「中東音楽の要素がフィンランドに持ち込まれた」と断定する論文は少ないですが、以下のような指摘はあります。
- ウラル系民族の音楽は、アジアとヨーロッパの文化接点に位置し、遊牧・精霊信仰的な表現が音楽にも残っている。
- 一部の研究では、サーミ音楽における旋法と、中央アジア~トルコ系の旋法に音楽的な類似があるとする。
- フィンランド民族音楽研究者(例:Heikki Laitinen)の著作にも、サーミ音楽と東方的音階との比較的分析がなされています。
限界と可能性
問題は、「伝播による影響」なのか「共通起源の名残」なのかを分けるのが難しい点です。
ただし、「中東→フィンランド」の直接的な影響というよりは、共通する古代ユーラシア的な音楽文化の断片が、双方に別々に残っているというモデルの方が現在の研究では主流です。
まとめ:可能性としての「音の系譜」
- 言語・民族系統:フィンランド・サーミ人はウラル語族で、アジア起源の移動民とされる
- 音楽的類似:ヨイクと中東~中央アジア音楽に旋法や表現の類似あり
- 文化的共通項:精神世界志向、トランス的リズム、旋法の使用
- 学術的評価:「直接的な中東文化の影響」ではなく、「共通祖形/並行進化」とする説が有力
――― 仮に民族性や歴史の関与が薄いとする場合、KINGSTON WALLとPHLEGETHONは活動時期がさほど大きく離れておらず、影響を受けるにはインターバルが短いようにも思えます。ヘヴィメタルのフィールド以外で、中近東風のフレーズとトランス風のリズム演出の融合をポップス~ロックのフィールドで実践したフィンランドの先駆的なバンドがKINGSTON WALL以前にもいたのでしょうか?
ChatGPT: ご指摘の通り、KINGSTON WALLとPHLEGETHONの活動時期は1990年代初頭で重なっており、直接的な影響関係を築くには短いインターバルしかありません。このため、フィンランドのロック/ポップス領域において、KINGSTON WALL以前に中近東風の旋律とトランス的なリズムを融合させた先駆的なバンドが存在したかどうかを検討することは意義深いです。
KINGSTON WALL以前のフィンランドにおける先駆的な試み
1980年代のフィンランド音楽シーンでは、以下のようなバンドが独自の音楽性を追求していました:
- Wigwam:
1970年代から活動していたプログレッシブ・ロックバンドで、ジャズやサイケデリックな要素を取り入れていました。 - Piirpauke:
1974年に結成されたバンドで、フィンランドの民族音楽とジャズ、ロックを融合させたサウンドを展開していました。
これらのバンドは、KINGSTON WALL以前に異国的な音楽要素を取り入れる試みを行っており、フィンランドの音楽シーンにおける多様性の一端を担っていました。
文化的背景と音楽的融合の可能性
フィンランドの音楽家たちは、長い冬や自然との深い関わり、そして内省的な文化的傾向から、異国的な音楽要素に魅了される傾向があります。中近東風の旋律やトランス的なリズムは、精神的な旅や瞑想的な体験を音楽で表現する手段として適しており、これがフィンランドのアーティストたちに影響を与えた可能性があります。
結論
KINGSTON WALL以前のフィンランドにおいて、中近東風の旋律とトランス的なリズムを融合させた音楽を明確に実践していたバンドは限定的ですが、WigwamやPiirpaukeなど、異国的な音楽要素を取り入れる試みを行っていたバンドは存在しました。これらのバンドが直接的にKINGSTON WALLやPHLEGETHONに影響を与えたかは明確ではありませんが、フィンランドの音楽シーンにおける多様な試みが、後のバンドの音楽性に間接的な影響を与えた可能性は考えられます。
ほー。
でWIGWAMとPIIRPAUKEを実際に聴いてみたところ、前者は英カンタベリーシーンに近い色合いをもつプログレ/ジャズロック(ペッカ・ポヨラを輩出したグループだったとは知らなかった)、後者はプリミティブなサイケフォークロックとフリーインプロが入り混じったAMON DUULみたいなグループで、どちらもごった煮感はあったがKINGSTON WALL的な中近東テイストとは違った。ChatGPTが解析できるのは譜面までで、音声データから調性などを読み取ることまではまだ出来ないそうなので、今はこのくらいが限界ということだろう。
とはいえ、断定には至らないまでもそれなりに有用な根拠が出てきて、あながち完全な思い違いや偶然でもなさそうだということは分かった。
この問題について見識または現地の肌感覚をお持ちの、フィンランド文化に詳しい方がもしおられたら、よければtwitter経由などで見解をご教示いただけると幸いです。
※後日註:
近頃頼りにしているGoogle Geminiにも同じ質問をしてみたところ、ソースが同じ(ネット情報)なのでかなり似たような回答だったものの、ここで疑っているような関連性があり得ると主張できるかどうかについては、かなり慎重(というかやめとけという感じ)だった。その会話の共有リンクはこちら。