FLIM & THE BB'SとDMPおよび関連作
長らく更新をサボッていた間、音源はむしろ右肩上がりの元気さで買い続けていて、近頃はもっぱらニューエイジみのあるフュージョン/コンテンポラリージャズの紐解きに取り組み中。どうもしばらくぶりです。
「おれはスムースジャズも聴けるし好き」という漠然とした状態から、好みのタイプが上述のとおり明確になってきて、レーベルの勢力図も少しずつ見えてきて、掘り下げ甲斐が増してきた。
いきなり話を逸らすと、人がFMシンセの音に無条件にキュンとなるのは、脂や糖を甘いと感じるのと同様に、水か何か、生命にとってありがたい物質がたてる音の周波数を直撃しやすいからなのではと最近思う。コンビニのスイーツ棚で「どいつが生クリーム含有率高いかな~」と思っているときの頭の中と同様、DX7的なやつがキランと鳴ると、明らかに脳が「これは報酬」と言ってる気がするし。(やめよう「おれの最高は皆の最高」的思考)
そういうこともあって、すべてを知っているKJCMuziqueさんほかYoutubeの助けも借りながら、シンセ具合のよいフュージョンを掘りあさる中でDMP作品に引っ掛かり、流れでFLIM & THE BB'Sに遭遇した。
DMP(Digital Music Productsの略)は80年代初頭から存在したジャズ/フュージョンのインディレーベル。劣化排除を徹底した超高音質ダイレクト・2トラック・デジタル録音にこだわり抜いており、長年にわたってオーディオマニアからの支持が厚い模様。そうと知らず最初に買った1枚(THE FANTASY BANDのセルフタイトル1st)で明らかに脳がいつもより「この報酬はいつもよりスゴイ」というので、調べたらそういうことで納得した。
フュージョン専門ということでもなく、コンテンポラリー寄りのアコースティックジャズやビッグバンドものなども全然出している。
FLIM & THE BB'SはそのDMPを最初期から支える4人組グループ。アラン・ホールズワースの客演ほか恐ろしい数の参加作品があるジミー・"フリム"・ジョンソン(b.)、ディズニーのアニメーターとセッションドラマーの兼業というおもしろそうな人生のビル・バーグ(ds.)、そのビルと共にレオ・コッケなどのアメリカーナ系ミュージシャンの諸作品で客演歴があったもう一人のBBことビリー・バーバー(key.)、1stではゲスト扱いであったためバンド名には登場しないがメル・ルイスからEVERYTHING BUT THE GIRLまで手広く客演をこなすディック・オーツ(saxほか)の4人編成。

フュージョン/スムースジャズといっても、
- ソウル/R&B/ファンクに寄るグルーヴ重視もの(往年のブラスロックを感じさせる快活派、ディスコ派、90年代に入るとブラコン的な非人力ゆったり16ビート派など、主流は多分ここ)
- そこにAORを絡めるもの、またはほぼインストAORなもの(産業ロックだったり「アーバンメロウ」だったり、ちょっとプログレハードだったり)
- ひたすらテクニックが凄い人をフィーチャーするもの
- テクノロジーこそ未来と信じて打ち込み多めのニューエイジ寄りになるもの(80年代末以降しばらく、ここにアフリカ風エスニズムが幅を利かせる)
等いろいろと傾向がある。
個人的には「ほぼインストAOR」「プログレハード的はみだし感」「ニューエイジ寄り」のブレンドが好みで、そういうものをもっぱら探している。
FLIM & THE BB'Sはまさにそんな要素を少しずつフリカケにしつつ、足腰はしっかりコンテンポラリージャズという印象で、高度な実演力ありきでキワキワに組まれた楽曲性が魅力。ゲシュタルト崩壊しそうな人力シーケンスを延々続けたり、シンセのフレーズがどこかメカニカルだったり、ジミー・ジョンソンはベースの範疇を超えた動きをしていたりと、プログレ耳を直撃する精緻なアプローチ満載ながら、トータルではアメリカンな大らかさが支配的で、やたらほのぼのと遊んでいる感じが大変ユニーク。
ビル・バーグの仕事やアートワークからの先入観に引っ張られているだけかもしれないが、このエンタメ的ハラハラ感は、昔の舶来アニメの劇伴にどこか通じる気もする。ビリー・バーバーがアルバム1枚まるごとアコースティックピアノで独演しているソロ作「SHADES OF GREY」('84)でもそんな雰囲気を感じ取ることができる。
後年になるにつれ、耳当たりのよいいわゆるフュージョン的作風へと移行し、90年・92年リリースのラスト2枚では大手WARNERに移籍している。芯のあるミュージシャンシップは変わらず健在で、同時期のSTINGやブルース・ホーンズビーを「よくできた大衆ポップス」で済まさない向きなら大歓喜極まる名盤になっている。
DMPとの蜜月はどうしたの...と、経緯を知らない後追いファンとしては心配なところだが、移籍前にレーベルに残したベスト盤収録の新曲2曲のうち、歌入りの"Someday"(これといった情報の出てこないキャシー・ミュラーという女性シンガーと、ビリー・バーバー自身によるデュエット!)の歌詞はどう聴いても「愛し合う者達の惜別」みたいな内容ぽいので、インディからメジャーへの円満なステップアップであったと想像される。
どの作品も後年のリプレスが少なく、「高音質録音盤」のような文句を謳いやすいこともあり、中古市場では価格がメキメキにつり上げられている場合もあれば、実際の需要や80年代フュージョン全般の相場を反映して格安の捨て値がつけられていることも多い。そのギャップに翻弄されながら、オール最安入手とはいえない買い方で急いで集めてしまった。(自分が買ったあとに出会ってしまった安値品は、友人に勧めて買わせて自分も友人も満足した)
これだけハズレのない名盤群を、独特の統一フォーマットのアートワークで作られると、DMPのほかの作品にも自ずと興味が沸くというもの。
80年代フュージョンは一般的に安いが、希少には違いないため先述のとおり買い時の見極めが難しい。またDMPの国内盤はすべて直輸入盤+オビ解説という仕様なので、完全輸入盤志向のワタシでも国内盤がサーチ範囲に入る。アルファベットだけでなくカタカナで調べたり、品番で調べたり、いつもと違う探し方することになって相当楽しめた。
以下、そのようにしてたちまち集めたDMPのカタログの中から、オススメを何点かピックアップ。
BILLY BARBER「LIGHTHOUSE」('86)

まずはBB'Sメンバーから。先述の「SHADES OF GREY」ともう一枚DMPに残されているビリー・バーバーのソロ。こちらはシンセ、打ち込み、リズムマシンとアコースティックピアノを駆使した多彩というかやや実験的な内容で、音数の薄さやシンセのモロデジタルな感じ、クラシックに根差したポップなわくわくアドベンチャー的作風などがちょっとゲームミュージックぽいかもしれない。ニューエイジというには「サウンドスケイプ」「ヒーリング」みたいな言葉が似合わないし、チープさ漂う電子音を従えて躍る生ピアノのタッチはやたら上質だし、気難しさゼロで奇抜な表現ではないのにシンプルな収まりどころが存在しない。個人が独力でおのれのビジョンを体現した、まさにソロ作品の鑑。
THE BOB SMITH BAND「RADIOFACE」('91)

何じゃこれ度ナンバーワンのジャケットが眩しい、トロンボーン奏者ボブ・スミスのリーダー作。フュージョンと呼べるかどうかギリギリあやしい域まで踏み込むオッサン軽音楽/パブロック/AORをインストで繰り広げている。これはバーゲン棚に追いやられるタイプのアメリカン・オールタイム・グッドミュージックの上澄み中の上澄みだと思う。テーマ重視型でサラッと流れていくのだけど、確かな演奏力が最高の聴き心地のためだけに総動員されており、とにかく毎秒調子がよい。この作品の前にリリースしているBOB'S DINER名義のセルフタイトル作('89)も同様に最高。
THOM ROTELLA「HOME AGAIN」('89)

70年代中頃から地道なセッションワークを続けているギタリストのリーダー作2枚目。アコギ使用率高めの終始リラックスした王道スムースジャズで、ヴェイパー職人のネタに重宝されそうな人工リゾート風味、会社勤めの男女が3対3で恋愛する80年代ドラマのサントラ感などが美しく結晶化している。完全なるエレベーター/天気予報系フュージョンよりは人の気配があり、かつ演奏の細部に集中力をもっていかれることはあまりない、理想の湯加減かと思う。
ちなみにDMP作品の外装には、CDマニアがニンマリする面白いこだわりがある。
初期CDによく「ADD」とか「DDD」というような、録音/ミックス/マスタリングをそれぞれアナログでやったかデジタルでやったかを示す表記があることをCD愛好家諸氏はご存知かと思うが、DMPの場合は先述のとおり、ミックス済みの音声をダイレクトレコーディングしているため、録りとマスタリングの2工程で「DD」になっている。

一般的にありうる書き方なのか、誇りを込めたジョークなのか。なんとなく後者だといいなあという気はする。
調査を進めると、DMPとはまったく関係のないところで、BBメンが2人くらいまとめて客演に参加している作品というのがけっこうある。
そちらもちょっとご紹介して今回の〆としたい。
MICHAEL MONROE「SUMMER RAIN」('80)

HANOI ROCKSのあの人とは同名異人(とご本人も言われ飽きているであろう)のアメリカンSSW。ビル・バーグ&ビリー・バーバーのBBズに加えて、ビリーの妻ミシェルもコーラスで参加。フォーキーなAORというかその逆というか、いかにも80年リリースらしい歌もの。ベースはアップライトとエレクトリックを曲によって替えていて、アコギまたはチョリッとまぶす程度のエレキギター、アコピもしくは柔らかい音色のエレピ、たまにストリングス+ブラスも入るアンサンブルが、総じて柔らかくナチュラルな音像を作っている。延々見ながら座っていられる郊外の景色のような生理的気持ちよさ。特別美声だとか印象的なメロディだとかいうことは正直ない気もするけど、感触全体で「これは宝物」と強く感じさせる雰囲気名盤。ちなみに写真の現物は93年のリイシューCDで、オリジナルとはアートワークが異なる。
WAYNE JOHNSON TRIO「SPIRIT OF THE DANCER」('88)

こちらはジミー・ジョンソン&ビル・バーグのリズム隊が参加。ブルーグラス風味をまとったシンプルで勢いの良いギタートリオとしてアルバム2枚をリリースしたあと、よりモダン(当時)フュージョン色の濃いZEBRA RECORDSに移籍しての2枚目となった通算4th。初期作で顕著だった土くさいほうのアメリカーナ感が若干後退して、PAT METHENY GROUP以降の80年代アメリカンガレージな爽やかさに置き換わり、ついでにプログレハード的なスリリングさも加わっている。フュージョン作品によくあるソウル調のやつではなく、オリンピックのテーマ曲みたいなハキハキとした感じ(?)で女性ボーカルが入る曲もあり、バリエーションに富んだ曲それぞれがツブ立ち・インパクトともに高水準。名義どおりトリオ編成ではあるものの、ギターシンセを積極導入していてオーバーダブも多いうえに、ジミージョンソンはやっぱり二人分くらいのスペースを余裕で埋めているし、フレージングの妙味に耳を澄ませなくても常時楽しさがこちらに流れ込んでくる快作。CDも買うぞと心に決めている。